たとえばのはなし 零



女の独白


「たとえばのはなしでェございやす。ま、マ、聴いていきなっせ。小生、しかとお話いたしますゆえ。
 さ、仕切り直しですよ。たとえばのはなし、ここに虫がきらいな女の子がいるとしましょ。卑猥に聞こえる?そんなこたァありません。アタクシ、女の子よりも赤ん坊のほうが好物ですから。ふふ。
 さて、話を戻しまして、その女の子の目の前に突如小さい蜘蛛が現れました。女の子の手元には白ォい紙があります。さーて、女の子はその蜘蛛をどうしたってェ思います?
 ま、聞かずもがなでしょうなァ。えェ、そうです。女の子は蜘蛛を紙で包んで捨てちまいました。理由なんて簡単です。女の子は虫がだいきらいに決まってるからですわいなァ。
 解ったざんしょ。人間ってェのはきらいなものに容赦は致しやせん。それを咎める人間もいやァせんでしょ?だって、それがきらいなんだから。そりゃァしょうのないことです。
 何が言いたいかってェ?つまりはですね、アチシもきらいなもんがあるんでございます。それは戦人(いくさびと)でね、戦をする人間はみィんなきらいできらいで堪らないんです。
 だから、アッシ佐倉冬嗣は戦人を紙で包んで捨てちまうんです。殺しちまうんです。咎めるひとなんて、いるはずないわなァ。


 え、アタシャ戦人がきらいなんですから」


mokuji