耳を塞ぐにも両手がないよ [ 7/13 ]


藍場 藤
正十字学園特進科一年生。気長女。大体何も考えていない。
勝呂 竜士
正十字学園特進科一年生。短気男。大体考えすぎてしまう。



最近藍場さんが子猫丸と仲が良い。

毎日携帯の画面を見せつけて、「いいでしょ」とにやつく。生憎、子猫丸との付き合いは俺の方が長い。
メール画面を自慢した後は惚気話のように会話内容を述べた。たまに直接会うらしく、「ねこの話で盛り上がったんだよー。ねこじゃらし常備とかもうほんっと癒されるよねえ」とかなんとか頻繁に報告しに来た。

それが、何故だか気に入らなかった。

非常に苛々するのだ。意味も理解出来ないまま、腹が立っている。授業に集中も出来ないし、課題も手に付かない。そんな状態は初めてで、戸惑うばかりだった。

どうして俺はこないに苛立っているのか、分からん。

「…勝呂くん?」

はたと、現実に引き戻される。そういえば、藍場さんと話していたような気がする。意識が飛んでいたようだ。

「なんや」
「大丈夫かなあっと思って。ぼーっとしてたよ、スグローニョが珍しい」
「……別に、なんでもないわ」
「…つ、ツッコミが、ない、辛い」

何かぶつぶつと呟いているが、聞こえないのでこの際無視をする。分からないのだから、心配されても答えようがない。

本当に、意味が分からない。

○×△□


「坊、今日藍場さん来てはりましたか?」

祓魔塾に来て、子猫丸と挨拶を交わした途端そんなことを聞かれた。
何で、子猫丸がそんなことを聞かなければならんのや。その質問を自分にしてきたことに、また苛々する。

「昨日、今日は行かないとか言うてまして、心配やったんです」
「…来とった」
「ほんまですか?なら、よかったです。体調とか、悪なかったですか?」

体調?そんなこと、俺に聞いても分かるわけないやろが。何で俺が藍場さんのこと全部知っとかなあかんのや。ただの隣の席なだけやろ。
それに子猫丸なんか、たかが数日の仲やないか。俺に比べたら、全然短いくせにメールもして雑談もして、俺よりも仲良うなりおって。誰のおかげやと思っとるんか。

ほんま、

「坊?」

腹立つわ。

「なんで俺に聞くんや!?自分で聞けばええやろう!俺よりも仲良うなっとるんやからな!!」

鞄を地面に叩きつけ、ふたりしかいない教室で叫んだ。
子猫丸は、目を見張っていた。その顔を見て、やっと正気に戻る。

ああ、俺は、やったらあかんことを、して、

「……す、すんま、せん」

違う。子猫丸は何も悪くないんや。悪いのは、俺の方や。

「坊?子猫さんも、なんか、」
志摩が教室に入って来て空気が淀んだそのすきに、俺は鞄も置いて廊下へと飛び出した。

「坊!」

志摩が最後に俺を呼んだが、最早構っている余地などなかった。


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