特産品:からあげ [ 4/13 ]


藍場 藤
正十字学園特進科一年生。本能のままに生きる。弁当時が一番楽しい(ずっと)。
勝呂 竜士
正十字学園特進科一年生。良識ならちゃんとある。弁当時が一番疲れる(最近)。



「ところで話変わりまして、すぐろん」
「変わるも何も今まで話してなかった…って藍場さん今なんて言うた?」
「にわとりは好き?って言うた」
「言うとらんやろが!なんやすぐろんて!」

いつもよりテンションが高めの藍場さんがひどく冷たい目をした。そのまま前の席の田中さんに口元を寄せる。

「……聞きました奥さん、自分のことすぐろんって言いましたわよ。ドン引きですわねぇ」
「えっ、えっと、わ、私?」
「そうざますよねぇ!今時すぐろんなんて古いざます!コケコッコー戦隊スグロンジャー!とかだったらナウいと思うざます」
「落ち着かんかど阿呆!田中さんも困っとるやないか!」

田中さんが無茶振りに困っていたので、藍場さんの頭を叩いて止める。暴走しだしたら止まらない。ここ数日でかなり学んだことだ。

「めんごめんご。はい、からあげ」
「う、うん…。ありがとう…?」

箸で突き刺して美味しそうなからあげが田中さんに向けられる。田中さんは遠慮気味にそれを受け取った。
あれだけの無茶振りをしておきながらからあげ一個とは、安いものだ。

「知ってた?それ京都生まれのヤンキー…と見せかけて実は超絶優等生のにわとりの肉から出来ているんだよっ」
「えっ、それほんと…?」
「まじでじま!」

どうやら、何も反省していないようだ。

「骨と筋肉しかなさそうなところ数少ないお肉をちびっと拝借してね。ほら、ここあた「ええ加減にせェ!」りっンごあめ!」
「何やその台詞」
「うるさいなありゅうたんは」
「はァ!?」

再び頭を叩いて止めれば、案の定恨めしそうに見上げてきた。制裁だ当然だという視線を送れば、「けッ」と口を尖らせる。

「田中さん、気にしないで食べて」
「う、ん…。あ、おいしいよ」
「だって!よかったねじーりゅう!」
「誰や!つか俺関係ないわ」
「業界用語も知らないの?ったくちょうおばか」
「はっらったっつ…!」

こいつと喋っていると苛々しかしない気がしてきた。どうしてこう、ひとを小馬鹿にするような喋り方をするのだろうか。
反論を考えていると、予鈴が響き渡った。どうしようか、まだ昼食を食べ終わっていない。こいつに構っていたからだ。

「あ、チャイム鳴った。ろーすぐ、まだめしひるちょう残っている系だからまじダッシュした方がいいカンジ?」
「喋り方うざいわ」
「うっさい。つか、食べるのレイトレイト!ボーイズのくせにイーティングがレイトなのはちょっとノークール的な!」

某有名人のようにまくしたてる藍場さん。そんなことを言っている手前も昼食が半分以上残っているというのに。
俺は盛大に溜息を吐いて、それから田中さんの方を向いた。

「田中さん、席変わらん?」
「あはは、遠慮するね」

誰もがそう言うだろう返答を、ご丁寧に言ってくれた。席替えまで、まだしばらくあることがとても辛い。

「からあげばかうまぁ」

何も知らないで阿呆面でからあげを食べる隣人にこのうえなく苛々したので、椅子の足を蹴り上げた。



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