人間の三大欲求を挙げよ [ 3/13 ]


藍場 藤
正十字学園特進科一年生。ハイテンションガール。キュート派。
勝呂 竜士
正十字学園特進科一年生。真面目ヤンキー。セクシー派。



やっと五時間目の授業が終了した。午後に古典をやるのはなかなか辛いものだ。生活習慣がしっかりしている勝呂は睡魔とは無縁だが。
眠そうに項垂れるクラスメイトを見ながら次の授業の準備を開始する。

「勝呂くん勝呂くん」

真っ先に寝そうである藍場は、どの授業でも寝ている様子が見受けられなかった。集中しているわけではなさそうだが、一睡もすることがない。それを大層珍しく思った。
呼ばれて横を向けば、花柄の半纏が目に映る。

「なんか」
「わたくし面白いことを思い付きまして、どうです。参加しませんか」

にたりと怪しげな笑みを浮かべ、藍場は首を傾ける。勝呂はどうせよからぬことだろうとすぐに感じ取った。

暫くの沈黙の後、勝呂は仕方無しに口を開いた。

「内容にもよる」
「よしきた。勝呂くん、ちょっと授業中に居眠りして」
「絶対嫌や」

そんなことだろうと思った。呆れながら拒否すると、藍場は少し悩んだ挙句顔を上げた。

「いややってあややみたいだね、ところで勝呂くんはセクシー派?キュート派?」
「セクシー…ってなに言わせとるんか!」
「ほほう、セクシーとは…。ちなみにわたしはキュート派かな」
「知らんがな!」
「それでさ、まずはこう十五分くらいは真面目に受けるんだけど」
「急に話を戻すな!了承した覚えもないわ!」

勝呂があまりにも嫌がるので、藍場は小さく唸る。そのあと何か思い付いたように手を打って鞄を開けた。

「…ガサゴソ」
「自分で言うなや」
「そら、どーん」

鞄を探って勝呂の机に置いたのは、セクシーなお姉さんのほぼ裸体に近い状態の写真が表紙になっている雑誌。
それを直視した勝呂は、その雑誌が何であるかを瞬時に理解した。

「なッ、お、おま、なんつーもん出しとるんか!早よしまえ!」

よりによって自分の机上に置かれたので、尚更慌てて藍場の鞄にそれを投げ入れた。その対応に、藍場は不服そうに勝呂を見やる。

「うおっ、なにようもう」
「そ、そんな、もん出すな!手前一応女子やろが!」
「そんなもんって、エロ本だよ」

露骨に言われたその雑誌の一般的な名称に、勝呂は噴き出す。

「分かっとるわ!」
「なに?勝呂くん興奮したの?うっわ卑猥―。ここまでどキツイの持ってなかった?ったく低レベルだなー。こんくらいないと出るもん出「それ以上喋んなこの半纏女!!」うぐお」

いつにも増して饒舌な藍場の口を勝呂は教科書を投げて閉じさせた。
鼻を赤くしながら藍場は勝呂を睨む。全く、中学生かよ。などと思いつつ、ぐしゃぐしゃに投げられた雑誌を綺麗に入れなおした。

「ふん、勝呂くんもガキだなあ」
「手前がおかしいんや。ふつう女子はそんなもん持たんやろ」
「まあ、わたしは見る以外に用途はないけどね」
「……」
「なにその目。かわいい子見つけたら友達に紹介するんだよ。趣味の合うひとがいるのよ」
「手前の友達はそんなんしかおらんのか…」
「しっつれいなあ」
「はあ…」

もう呆れて物も言えなくなった勝呂。その隣で藍場はぼんやりと空を見つめていた。

あ、そういえば。

「勝呂くん、居眠りしてくれない?」
「絶対せん」
「残念」



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