はんてんガール [ 10/13 ]



藍場 藤
正十字学園特進科一年生。勝呂竜士と付き合っている。すぐ照れる。
勝呂 竜士
正十字学園特進科一年生。藍場藤と付き合っている。不意打ちに照れる。



翌日。いつも一番に登校する勝呂は、遅いはずの藍場が早めに来たことに驚いた。普段ならば、本鈴ギリギリに来るというのに、珍しい。
席に真っ直ぐ向かおうとして、隣の席が埋まっていることに気付いた藍場は目を丸くした。

「おはようさん」
「うおっ、お、おあようございますう…」
「急に赤面すんな。こっちが照れるわ」
「ちっくしょ」

藍場は乱暴に鞄を机上へ置き、その上に頭を載せてから「ねむー」と小さく呟く。

「早よ目が覚めたんか」
「そうなんだよ。誰かさんの所為で」
「自分の所為やろ」
「わぁってるし。あーもうー、いつもは七時に起きるのに」
「そんなんで間に合うんか?」
「あったりまえだのクラッカー」
「ギリギリやけどな」
「うるへー。もう寝る。勝呂くん、起こさないでね」
「名前で呼ぶんやなかったか?」
「藤ちゃんはログアウトしました」
「…」

藍場の耳が赤くなっていることに気が付いた勝呂は、もう何も言わないでおこうと笑った。
馬鹿みたいに騒いどる奴なのに、急に静かになりおって。優しい微笑を浮かべながら、再び授業の予習を始める。眼鏡をかけ直し、教科書を持ち上げた。

「予習とは精が出ますなあ、竜士くん」

いざページを開こうと思った刹那、耳元で藍場の声がした。

「ッ、は、おま、」
「うおっ、竜士くん照れてはりますなあ。良い眺めどすえ」

にたにたとにやけながら藍場が椅子の上に立っている。いつのまに立ち上がったというのか。
勝呂は赤面しながら椅子を蹴り上げた。

「危ねっ、落ちる!」
「手前、くっそ、」
「なるほどなーん。竜士くんは不意打ちに弱いのね。メモメモ」
「ちゃうわ!」
「あ、あっ、やばい!」

再び椅子を蹴れば、藍場はバランスを崩しぐらりと揺れた。そのまま後ろに体重をかけ、落ちるかと思われた。痛みに耐えるべく、目を固く瞑る。

しかし、痛みはいつまで経っても襲って来はしなかった。

「うっ、…お、お?落ちてない」
「危なっかしいことすんなや!心臓止まるかと思ったわ」
「あり、竜士くん、近い」

勝呂が寸でのところで藍場の半纏の裾を掴み、こちらに引き寄せたのだ。体格の良い勝呂は藍場をしっかり抱えている。
状況を理解した様子の藍場を見て、勝呂は安堵の溜息を吐いた。

「ったく、」
「蹴ったのは竜士くんだよ」
「手前が椅子の上なんかに載るからや」
「あーっ!そういうの他力本願っていうんだよ!」
「責任転嫁や!」
「あれ?そうだっけ」
「はあ、ほら、下りろ」
「えー、わたしまだここにいたいわぁん」
「っ!やめろ!」
「竜士くん顔赤―い」
「ちちちち近いから離れェ!」
「ほーれ、ぐりぐり」
「くすぐったいんや!」

子どものように騒いでいる藍場を、勝呂は強制的に離れさせた。それでも下ろすことはしない。
急に離れたので状況が掴めないでいる藍場は首を傾げる。半纏の裾を握っている白く小さな手を見て、勝呂は目を細めた。


ほんま、こいつが半纏着とらんかったら気付かんやったかもしれんな。俺と全く違う性格の、藍場藤という不思議な女子に。


「好きやで、藤」
「だ、だから、そういうこと、朝から、」
「次も隣の席になろうな」
「うううう、くじ運祈っておきますよ!」
「ははは」




そんな、はんてんガールと青春を謳歌する勝呂くんの話。

まるで、反転したように真逆なふたりの話。



お し ま い


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