彼、御堂筋翔はいわゆる「変人」だ。一般的に言う「変な男」だ。そして、わたしはその変人と付き合っている。きっかけは、まあわたしがその変人が好きだったことにあるわけだ。


さて、そんな彼と付き合って初めてのイベントが今日、ハロウィンというわけだ。わたしも女子のはしくれではあるのでそういうイベントには興味があるし、なにかしたいと思ってしまう。
恐らく御堂筋はめんどうくさがりそうだが、どうせお菓子をくれればそれで終わる話だ。だいじょうぶ、……だといいけど。





・・・






放課後になって彼の教室に行くと、彼は身支度を済ませて舟を漕いでいた。


「御堂筋、きょう部活ないんですか」
「きょうは休みや」
「うん、そっか。では帰りますか」
「おー」


何気なく頭をぽんと叩き、そのまま先を行く御堂筋。しばらくぼうっとした後に慌てて彼を追いかけた。




他愛もない話を繰り返して、ようやく校門をくぐった後に本題へと入ることにした。


「あのですね」
「なんや」


首を傾げた御堂筋にわたしはにんまりと笑う。


「トリックオア、トリート」


視界のすみでかぼちゃもにんまりと笑う。御堂筋は口をあんぐりと開けたまま、数十秒ほど黙っていた。
それからようやく言葉の意味と状況を理解したのか、呆れたように息を吐いた。


「あほくさ」


ぽつんとそうこぼされた。予想していた反応の例にその反応も含まれていたので、特に傷付くことはない。ちょっとだけ寂しい気もするが。
ですよね、と呟いて歩くスピードを元に戻す。


「ほい」


おもむろに投げられたそれを、寸でのところで受け止めた。不意打ちだった。手のひらに包まれたそれは、にんまりと笑ったかぼちゃだった。


「きみのことやから言うやろなあ思て、買っといた。チョコレイト、好きやろ」


「う、うん。好き」
「これでいたずらはなし、やな」


いつもみたいに意地悪な笑みではなくすなおに顔を綻ばせた御堂筋に、思わず目を奪われた。
高鳴り始めた鼓動と急に赤く染まった頬を隠そうと、前を向いてお礼を伝える。
あんまり握っていると溶けてしまうので、かぼちゃの描かれた包み紙を取り去って丸いチョコレイトを口に放り込んだ。


「それで、」
「はい?」
「トリックオアトリート」


さらっと、なんでもないような口調で彼は言った。でもその表情は、いつもみたく意地悪そうな白い歯を見せた笑顔で。細められた目に、焦った表情のわたしが映っている。


わたしもお菓子を持ってきていたのだけれど、クラスメイトに配っていたらなくなってしまったのだ。御堂筋はきっとくだらないと言って、そんなこと言わないだろうと勝手に思っていたから。
彼はわたしの二枚も三枚も上手だった。


「なんや、ボクにやらしときながら自分は持たんの」
「帰りまでになくなってしまったんですよ。御堂筋は言わないと思っていた、ので」
「ふうん、じゃ、いたずらしてええってことやな」




一瞬視界が真っ暗になって、唇になにかがぶつかって、目の前に御堂筋の大きなまあるい目があって―――。




「ぼんやりしとったらおいてくで」




なにもなかったように歩いていく彼は、悪魔に仮装した子どものようだ。放心したまま動けないでいるなか、そんなことをぼんやり思った。





Trick or Treat
(お菓子をくれなきゃ)(悪戯するぞ)(おとなもこどもも)(みんなみんな)







(2012/10/31)