※死ネタ
※グロ














ナッティはあたまがおかしい。別にナッティに限ったことではないけれど。


この街にいるにんげん(にんげん?にんげんだっけ。私は、彼らは、にんげんかしら)はみんなあたまがおかしい。


無理もない。だってこの街では誰も死なないもの。死ねないもの。


殺されたって気が付けば生き返っている。無傷で。ゾンビにもなれない(でもハロウィンだけはゾンビになれた。死んでもしばらく動けた)。


こんな街に住んでいたら気も狂っちゃうわ。


だから、ナッティはこんなことを言い出すのよ。


「べろってさ、いちごみたいだよね」
「は?」


いつもどおり、へやでごろごろしていたときのことだった。ナッティはあめをかじり、私は本を読んでいた。


「赤いしぶつぶつしてるしさんかくだし」


ナッティの突然の意味不明な発言には慣れている。でも、確認せずにはいられない。


「ナッティどうしたの?」


べ、とナッティは真っ赤な(血の色をした)舌を突き出した。それは私のほうを向いていた。


「うん、だから、ぼくいちご食べたい」


ほら。嫌な予感って、当たるのよね。


「……言っとくけど、べろって噛みちぎると死ぬのよ。典型的な自殺の例だから」


要はナッティは私の舌を引きちぎりたいと言っているのだ。引きちぎって自分の舌で転がして、それから胃袋に収めたいと言っているのだ。


どうせそんなことをしても死なないのだけれど、私はあまり死ぬのを得意としていないので断っておく。


死ぬのって、痛いのよ。とっても。


「ええー!でもぼくいちご食べたいよ。青子のいちごが食べたいよ」
「いやだって。死ぬから」


子どものように両足をじたばたと動かすナッティ。
そんなことをしても私は了承しない。するはずがない。


すました表情のまま本に目を落としている私に不満を覚えたナッティは、とうとう実力行使ときた。


「……えいっ」


うつ伏せに寝ていた私を転がし、仰向けになったところで腹にまたがった。


「ひひ、いただきまぁす」


「ナッティ、やめ、っ!はに、ふ、っ」


キスをするように、くちとくちを合わせる。自分の舌で私の舌を引っ張り出し、口でくわえた。


ナッティは嬉しそうだ。


「いひゃ、いっ、あ、っ、!」


とうとう歯を立てた。ぐちゅ、と嫌な音が口内で響く。鉄の味が口いっぱいに広がる。


「はっ、な、なっ、ひぃ」


その言葉をさいごに、ぶつんとちぎれる音が喉の奥へと届く。


ナッティは口の中に果肉を含んだまま、溢れ出ている果汁を吸い上げた。こぼれた果汁までも舐めとった。


愛おしそうに私の一部を食べてしまうと、自分の舌で唇をなぞった。


「ふぁー、青子のいちご、甘くってとろとろしてて、おいしかったよ」


そんな風に感想を述べられても、私はもう死んでいるのだから答えようがない。それ以前にもう聴こえるはずもない。


死人に口なし。


うんともすんとも言わない私に気付いたナッティは不思議そうに目線を下げた。


「あれ、青子?あ、そっかぁ、死んじゃったんだぁ」


不服そうな声。


あたりまえじゃないの。そんな台詞も、いまではもう喉を震わすことはない。


私の喉を赤い汁が流れてゆく。それはやがて喉を埋め尽くしてゆく。


「んんー、あしたまたおねがいしてももう食べさせてくれないかなぁ…」


見張った私の眼には、恍惚とした表情で舌先まで残った味を愉しむナッティが映っていた。






いちご
(あまくておいしいよ)







(2012/09/05)