※グロテスク有
※カニバリズム表現有






なんてすばらしいごちそうなのだろう!


グレイト!そんな感嘆が喉の奥から飛び出した。


「すばらしい、すばらしいよ。きみたちは私にとって都合の良すぎる存在だ。いいな、いいなあ」


目の前の腕に指を這わせながらその肉感を堪能する。あたたかい、血の通っていたにおいがする。人のにおいがする。いい香りだ。かぐわしい。食欲をぐっとそそる。


「これ、もらっても構わないんだよね?」


すぐにでも調理に移りたい青子は、生娘のような眼で彼を見上げた。彼は自分の頬を撫でていた。どこか悩むような素振りで。


「何事も対等な関係が望ましいね」
「では私はどうしたらいい!思いつかないな。なにかきみから提案はないのか?私はある程度のことをこなせるつもりだ。何でもとはいかないが」


断面図をじっくり眺めつつ、彼へと解答を迫る青子。この異様な気迫に彼はわずかに身を引いていた。早口言葉のように自分にできることを述べ始めた彼女を黙らせるために、彼は肉切り包丁を喉元へと差し出す。青子はすぐにくちびるをきゅっと結んだ。


「数日程度絶対的な安全を提供できるかな」
「それをすると、私はいくらもらえるのかい」
「その数日の間、僕を好きなだけあげよう」


とうとうよだれがこぼれた。


「オーケイ!交渉成立だ!」


青子は肉切り包丁を彼の手からひったくったと思うと、それを彼の腹部に真っ直ぐ突き立てた。迷いなく。嬉々と目玉を光らせて。














「自分が料理されているところは初めて見るよ」
「だろうな!私も公開するのは初めてだ。なぜならみんな死んでしまうからな。それを私は日々嘆息していた。なぜ容易く死んでしまうのだろうと!人間というのは脆弱にもほどがある」


血を抜き、皮を剥ぎ、肉を切り、骨を削る。すべての過程に何の躊躇も感じられなかった。まるで料理番組のように調理の順序まで説明してしまう始末だ。彼、こと佐藤は密かに呆れ返っていた。そんな調理方法、知りたくもない。鼻歌でも歌いながら肉を焼く彼女を目で追う。さて、いつ殺そうか。

「数日ということはいつかいなくなってしまうんだろう?非常に口惜しいけれど、引き留めることは出来ないからな。きみは強そうだし。どうしようかな、保存しておこうかなあ。冷凍庫にいくらか置いておけばいいか。でもそれがなくなってしまったら私は発狂してしまうな。いやもう狂っているか!きみが私の好みだったら節約しつつ食べることにしよう。一日指一本ずつとかね!ああ、それは名案だけれどお腹が減ってしまうか。では適度に他の人間を、あ、きみの知り合いをいくらか紹介してはもらえないだろうか。もちろん同種のね!よいブローカーが現れてくれれば万事解決だ!私は金にも困っていないんだ。きっと利害関係の一致する適材がいてくれるだろう」


なあ、えっと、名前はなんと言ったかな?つい先ほど教えた名前を忘れてしまう痴呆な彼女に、ナイフを刺すのは容易なことだった。浮かれていたためか、あまりに隙だらけだった。的確に心臓へ突き刺し、引き抜く。彼女の身体に空いた穴から赤い液体が溢れ出てくる。さっきまで彼女が飲んでいたものと同じ液体だ。こんなものを飲むなんて、気持ちが悪い。不愉快を拭い去ることができず、刺された位置から不動だった彼女を蹴り上げた。ふらりとその四肢を揺らして倒れこむ。食器が落ちてけたたましい音が鳴った。


これからの予定を組み立てていたところに邪魔が入った。死体から、くぐもった呻き声が聞こえる。じゅわ、と何かが滲んでゆくような音も聞こえる。ああ、まさかそんなことがあるものなのか。

「あ、あ、ああ、あれ?あの、えっと、鈴木さんだっけ?」
「佐藤だよ」
「そうだった、佐藤さん!私はきみに刺されたよな?そのナイフでぐっさりと!心臓を一突き!」
「そうだね」
「だが、私は呼吸を続けている。心臓は規則正しい拍動を刻んでいる。脳みそは欲張りに酸素を欲している」
「そのようだ」



















「つまり?」
「きみは亜人だということだよ、青子くん」



テリフィック!心からの叫声のようだ。







美味なる探究






はたして美味しいの定義とは。

(2014/05/18)