座卓が強く叩かれ、上に載っていた湯呑がかたりと音を立てる。




「おお、志萬少年!汝は何故志萬なのか!」




問うは目の前の女。ここは何処かの劇場であったか。暫時そのような錯覚に陥ったが、すぐに冷静さを取り戻して溜息を落とした。




「そんなもん、志萬家に生まれたからやろ」




正論である。




「だよねえ、そうだよねえ」




そうに決まっているよねえ、と三度同義の言葉を吐き捨て、茶を啜った。女、もとい青子は志萬の真似をして深く息を吐いてみせる。




「ああ、なんで志萬は志萬に生まれてしまったんだろうなあ」
「生まれたらあかんかったのか」
「うん、ううん、いや、でも志萬に生まれなかったらそのパツキンもブルーアイズもないわけだから、そう思うと悩みどころかもしれない」




質の良さそうな少し癖のある金髪と、賢く光る青い眼を見やって、今度は嘆息した。そんなに呼吸をしては肺も休まることを知らないだろう。肺は休まないけれども。







「でも、ほんとうに、なんで志萬に生まれちゃったんだよ」







三度目の嘆声。







「志萬が志萬ではなかったら、わたしたちはきっと幸せだっただろうに」







彼女はそう言って、下半身の異形をずるりと滑らせた。










おお、ロミオ!

「そんなん、不毛な話や」






(2013/10/06)