桶の中に張った水は井戸水で、冬に浴びたら凍死するかもしれないくらい冷たかった。


「冷たくってきもちいい」


でもいまは初夏だ。だからこんな夏日にはこんな井戸水がちょうどいい。
初夏といってもまだ五月下旬である。そのはずなのに、三十度に達しようとしている温度計ばかりだ。京都の夏はつらい。


冷たい水に足をつけて縁側に寝そべる。あとは扇風機か、手頃なうちわがほしいな。


「なんや、せこいなあ。おまえだけ涼みよって」


聞きなれた声がして頭だけを声のほうに向けると、


「金造さん」


案の定金造さんがいた。うちわを欲していたところに、彼はうちわを所持していた。


「ほかの者は汗水垂らして働きよるで」
「十分休憩だよ」
「学校か」


微笑した金造さん。うちわでパタパタと首筋を仰ぎながら、桶の中に足をいれてきた。


小さな桶はわたしの足でやっとだ。金造さんの土ふまずはわたしの足の表面に合わせられた。


「あー、つめてー」
「ちょっと、金造さん、足重ねないで」
「じゃあかしいわ。ひとり涼みよった罰や」
「水温が上がるの」
「聞こえんわ」
「うわ、こそばい、」


金造さんの足を追い出そうと奮闘していたら、逆に足の指でくすぐられる。くすぐったさに足をじたばたとさせた。あふれ出た桶の水は乾いた地面に吸い込まれていく。


とうとう水はつま先を浸す程度にしか残らなかった。せっかく涼んでいたのに。また庭の先の井戸まで行かなくちゃいけなくなった。


「もう、どうしてくれるのかな」
「どうもこうもせんわ。おまえが暴れよったからやろが」
「ひどい。金造さんのせいなのに」
「ふーん、せやったら、」


にや。彼は悪ガキのように歯を見せる。


「じゃーんけーん、ぽん!」


条件反射だった。突きだしたのは、こぶしだった。それを狙っていたのか、金造さんはひらひらと手のひらを見せてくる。


「ずるい大人に育ったね」
「まだ子どもや」
「ご都合主義」
「ええから早よ行ってこい」
「次は勝つからね」


仕方なく空になった桶を抱えた。まったく、わたしが涼んでいたのに。


「ついでに氷とアイスも持って来たらええ」
「ばか、」


ほんとう、五月なのに暑いな、ここは。






Sun−day





今日はほんとうに暑いですね。冷たい水で涼みたい。
(2013/05/26)