「青子ちゃーん!」
「死ね!」


どっかーん。


「あーあ、またやってるよ」「今日これで二回目だろ」
「また仕事増えたな」「あのふたり、いっつもああなんだから」
「ていうか藤本神父が、でしょ」「あのひとはもう病気だよ」
「青子さん美人なのになあ」「あのドエスなところがな、残念だよな」


「何をグダグダ喋っている!」


「げっ、」「青子さんいつのまに!」
「喋っている暇があるなら書類整理に努めろ!」
「す、すみません青子さん!」


バタバタと一斉に立ち去ってゆく部下らを見て、青子はそっと溜息を落とした。先ほど蹴り飛ばした己の上司、藤本獅郎は未だに壁に突き刺さっている。


今日の任務が終了して疲弊した身体を休めようと、自室へ足を急がせていただけだというのに。


厄介な上司である藤本に絡まれ、従順なはずだった部下からはあのような批評をされ、まったくついていない。




「(私だって、なにも望んであんなことしているわけではないというのに)」









それは藤本の直属の部下となった日のことであった。青子のその美貌と豊かな胸と美脚、それから誘惑的な露出度の高い正装に一目ぼれをした藤本は、両手を広げて青子に(というよりは青子の胸に)突っ込んでいったのだ。




予想外の出来事に、青子は思わず足を上げて蹴り飛ばしてしまったわけである。鼻血を噴き出しながら倒れこんだ藤本に謝るべく駆け寄れば、


「いやァ、青子ちゃんの足蹴は堪んねェな。何度蹴られてもいいくらいだ」


と、言われたのである。それからというものの、青子(の胸)目掛けて突っ込む藤本にやむをえなく足を蹴る毎日が始まってしまった。


というか、今の台詞、耳元で聞こえたような。


「ふ、藤本神父!いつのまに復活していたのですか!」
「んー?今さっきだ」


驚いて隣を見れば、いつのまにやら起き上がっていた藤本が、あの日と変わらぬ表情を浮かべたまま青子の肩に腕を回していた。


「それよりなに思案に耽ってんだ?俺様に話してみなさい!」


急に真面目な面持ちでそう言った藤本。青子の心は揺れるかと思われたが、そんなはずもなく白けた目を向けるばかりであった。


なぜならば、彼の手は肩なんぞを掴んでいなかったからだ。


「結構です。それより藤本神父、どこに手を伸ばそうとしているのですか」
「えっ、言ってほしいの?」
「二度と目を覚ますな!」


どっかーん。









***









やっと、自室に辿り着いた。


深く息を吐きながら倒れこめば、ふかふかとベッドが青子を受け止めた。その感触に苛立っていた心は落ち着きを見せ始める。


ベッドに並ぶぬいぐるみのひとつを手に取り、その腹に顔を埋めた。ああ、気持ちいい。


今日の任務は終了したし、このまま眠ってしまおうかと思った矢先であった。


「部下からは冷徹なドエス美女と恐れられている青子ちゃんが、まさかこんなにかわいいもの好きとはなァ」


何故か、藤本がいた。


「っ、な、何故藤本神父が…!」
「俺ァノックはしたぜ?」


自分の隣に腰掛け、ぬいぐるみのひとつを持ってその感触を楽しんでいる。
この私が、ノックも気付かずにこの男を部屋に上げるとは。


そして、驚きはすぐに羞恥へと変わった。


青子の趣味、つまりはこのように部屋一面がかわいいぬいぐるみで埋め尽くされるほど“かわいいもの好き”というのは、周囲に知れ渡っていない事実であった。
仕事では藤本の言うように「冷徹」なのである。このギャップのありすぎる性格を、知られまいと誰も部屋に上げていなかったというのに。


よりによってこの男に見られるとは!


「か、返せ!」
「返す返す」
「そして出て行け!ここは私の部屋だぞ!」
「それは断る」
「うっ、っ、で、出て行ってください…!」


泣きそうになりながら引っ手繰ったぬいぐるみを抱き締めた。自尊心が大きな音を立てて崩れてゆくのが分かった。恥ずかしい。


どうしてこの男は、こんなにも私に関わるのか。


「藤本神父はっ、何故私に関わるんだ!私でなくとも、ここにはたくさんの女性がいるだろう!」
「えー、なに、そういうこと訊いちゃう?あと敬語なくなってるんだけど」
「どうせ胸のある女性ならば誰でもいいんだろう!」


とうとう堪えきれなくなって涙が溢れ出てきた。青子は俯いてせめてその顔だけは見られまいとする。


「いやァ、そんなことないぜ?」


藤本はいつもより優しい声音でそう言った。ベッドから立ち上がり、青子の前に跪く。そうして、そっと彼女の手を取った。


「な、なにを、」
「俺は確かにおっぱいのために生きているようなもんだ」









「……、なにを言っているんだ貴様は」
「えっ急に白けないで!これからかっこいいこと言うから!」


涙も引っ込んでさげすむような視線を浴びせかけるにいなに、藤本は慌てた。
しかしまだ話を聞いてくれるようなので、ひとつ咳払いをして再び青子の目を見据えた。


「だがな、誰でもいいわけねェだろ?


 青子ちゃんは俺を不誠実な男だと思ってるかもしれねェけど、意外とそんなことねェんだぜ。ちゃんと、青子ちゃん自身を見ている」
「……、」


「青子ちゃんが意外とかわいいもの好きとか、いつも頑張って真面目にしているところとか、ほんとうは部下思いで残業をいっさいさせないところとか、その残った仕事は全部自分で片付けているところとか、ぜーんぶ好きだぜ」


「な、なんで、それを、」


そんなことを知られているとは、思っていなかった。青子は驚くほかなかった。
この男は確かに不誠実で、自分の身体ばかりが目当てなのだと、そう思っていたからだ。







きちんと、自分を見てくれて、いたのか。




「藤本神父、私、」
「それに青子ちゃんのドエスなところもひっくるめて好きだぜ!」








…………、?








「は、」
「もちろんそのおっぱいも脚も顔も全部好きだ!しかも祓魔師のコートって意外とえろいよなァ!それ着て青子ちゃんに蹴られて罵られていると思うと、もう俺は天国に行けそうだ!あーあ、悪魔になって青子ちゃんに祓われてェ!」


にやにやと卑しく笑って頬を火照らせる藤本。
青子の額に血管が浮かび上がったことに、彼は気付かない。







さっきの、感動を、返せ。







「この変態!死ね!地獄に堕ちてそのまま二度と帰って来るな!」
「ありがとうございます!」





どっかーん。





変態は聖人になれません
(さっきの台詞にドキドキしたのは)(絶対気のせいだ!)





友人である(異常な神父狂である)藤川へ送る。誕生日おめでとう藤川!
リクエスト:ドエス美人美脚おねえさん×ドエムでおっぱい星人(聖人)な神父
(2013/01/22)