彼がいつものように蒲団を敷き始めたので私もそれに従った。まくらをひとつ渡せば毛布が一枚返ってきた。角と角を合わせて、就寝の準備は完了する。


「劉、きょうは晩酌をしないのかしら」


すでに毛布を被ろうとしていた劉へとそう訊いた。彼は驚いた表情をして、それからすぐに眉を寄せた。私の手に酒瓶が握られていたからだ。


「見て解らないのか」
「解らないわ」
「明日も任務だ。寝る」
「お酒くらいで任務に支障が出るようじゃまだまだね」
「挑発には乗らないぞ」
「あら、つまらない」


少し不機嫌になったけれど、彼はもっと不機嫌だった。眉間のしわが濃くなっていくのが見えてくすりと笑えば、今度は舌打ちをした。ずいぶんお行儀の悪いこと。


「ね、だって、あなた。きょうはあなたの誕生日じゃない」
「だからなんだ」
「冷たいひと。祝いたいと言っているのよ」
「要らない世話だ」
「もう、そう言わないで」


奥の手を私は持っている。座卓の下に忍ばせておいたとっておきの酒ーーそれは劉が好物の少し高額なものだーーを取り出した。ドンと音を立てて彼の前に置けば、案の定目を丸くする。


「聡い女は嫌われるな」
「聡い女じゃなきゃ、あなた嫌うでしょう」
「少し愚かなくらいが良い」
「嘘を、また。嫌な方ね」
「仕方があるまい。付き合ってやろう」


ようやく重い腰を上げ、酒瓶二本と愛用の盃を持っていち早く縁側へと向かう劉。単純ね、と笑いながら私も後を追った。


「お誕生日おめでとう、劉」


彼の手元では、並々に注がれた酒が月に照らされて清く煌めいていた。





つれないひと





(2013/01/12)