清い瞳は清い世界を

早速三成の服を調達しなくてはいけなかった。このご時世、インターネット通販というなんとも便利な商売があるためにそれは容易であるが。

朝食の後始末を完了してしまうと、居間の座卓にノートパソコンを設置した。

「それは何だ」
「文明の機器なのですが、三成さんには到底理解が出来ない代物です」
「莫迦にしているのか」
「違います。わたしの言語能力が乏しいので、説明が下手なだけですよ」
「貴様の普通と私の普通を同様に考えるな」

恐らくこの言葉の意味は、自分の普段使っている言語と三成の普段使っている言語とを一緒にするなということなのだろう。

つまり、言語が違うのだから説明し辛いのも当然のこと。そう言いたいと捉えられる。深読みしすぎかもしれないが、そう思っておこう。

「取り敢えず、これで三成さんの洋服を注文しようかと思います」
「…外に出る必要はないのか」
「便利になりましたから」
「私は別にこれで構わん」
「わたしが買いたいのですよ」
「……好きにしろ」
「はい、好きにします」

早速某通販サイトのページを開く。

―――と、服を選ぶ前に、しなくてはならないことがあった。

「三成さん、寸法を測らせていただきます」
「………ああ」

妙な間があったが、特に触れないで良いのだろうか。

サイズについては検索すれば丁寧に長さまで出たので、これで正確なサイズが分かる。三成ほどの身長と体格なので、大体は推測できるが。

人の寸法など測ったことがない三子に、三成は厳しく指摘した。

「そうやって持つのか」
「違うのですか」
「貴様の所ではそうなのか」
「……これは三成さんの時代とさして変わってはおりません」
「下手だな」
「えうっ」
「此処で持て」
「はい。で、胸囲は、」
「高い。もう少し低い位置で測れ」
「うっ、此処ですか」
「低い」
「あれ」

「此処だ」

そう言って、三成は三子の手を取って丁度の位置へ運ぶ。思わず、心臓が飛び上がった。ひやりと冷たい大きくて骨張った手に、三子の小さな手など容易く収まってしまう。

わざわざ合わせてくれたにも関わらず、三子の手は力無く落ちた。メジャーがフローリングの上で音を立てる。

「…何をしている」
「っ、う、あっ、えっと、す、すみま、せん」
「何故動揺する」
「い、いえ、いや、何でも、ないのです」
「顔が赤いぞ」
「触れないでください…」

何も理解していない三成が恨めしく思えた。真っ直ぐ過ぎて“そういった”ことに無知であるため、三子が赤面している理由など知る由もないだろう。

三子は女であり、それも異性との交友経験が皆無の女であるのだ。同居を許可したはいいが(まだきちんと言っていないけれども)、そういえば三成は男であることを忘れていた。
SF小説のような夢のような展開に興奮していたあまり、細やかなことまで考慮する余地はなかったのである。




(いや、三成さんはそんなことを考えてもいないだろう)
(何せ彼はひどく清いのだから)




ひとりだけ悶々と悩むのが悔しくなりながらも、首を傾げる異世界の戦国武将の寸法を測っていった。