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「なんとすばらしい!」

独り言だと分かっていながらも感嘆の声を上げられずにはいられなかった。なんとすばらしい。私のコレクションは他に比類ないと思っていたが、まさかここにきて現れるとは。人生ウン千年、捨てたものではなかった。ただただ目の前の光景に感激するばかりである。

その部屋の中央奥にはデスクトップパソコンとノートパソコンが並列して設置されており、他にもプリンター等の周辺機器が並べてあった。その周囲を取り囲むようにして本棚が陳列している。そこに並べられているのは漫画、小説、DVD、フィギュア、その他諸々。すべてが何らかの規則に従って整頓されていた。タイトルやフィギュアを眺めてみると、多種多様なジャンルが揃えられていることが判る。

灰谷は、正真正銘オタクにちがいない。それも、自分と同じレベルの。

奇怪に巻き込まれたときはやってられないと思っていたが、その感情は既に消え去った。
けれども、少しばかりおかしな点があった。

そこに並んでいる二次元のものたちの中に、自分の知らないものがいくつか見られたのである。

自分は世に出ても恥ずかしくないほどのオタクであり、知らないエンターテインメントはないと豪語できるほどのオタクだとも思っている。その私が知らないアニメが、漫画が、ゲームがあるなんて!これは実に芳しくない事態である。

デスクトップパソコンの傍に置いてある小さなフィギュアを手に取った。これも、私の知らないものである。それを見ながらDVDが並ぶ棚に目を通すと、すぐにそれと同じキャラクターが背表紙にプリントされているものを発見した。タイトルは「魔法少女みいる」である。やはり、知らない。ちなみに「魔法」と書いて「まじっく」と読むそうだ。間違っても片仮名に変換してはならない。それはこの作品に対する冒涜である。

とりあえずこれは見なくてはならない。そして内容を把握して自宅で確認する必要がある。これは義務だ。やらなければならない。なんとこの一室にはテレビとDVDプレイヤーまで備え付けてあった。さまざまなゲーム機まである。灰谷はなんてすばらしいオタクだろうか。

テレビとDVDプレイヤーの電源をつけ、慎重にDVDをセットした。灰谷女史はたいへん几帳面な性格なのは既知の事実である。きちんと再生する前にフィギュアも元あった位置に戻しておいた。

さて、見るか。

かわいらしい幼女が画面の向こうへウインクをして、「魔法少女みいる」のオープニングが始まった。

みいるは、私のストライクゾーンの範疇に余裕で入っていた。





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