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きっとだれも知らない空間。だれも立ち寄らない空間。だれも入れない空間。そんな真暗なところに、彼女はひっそり立っていた。喜びも哀しみも怒りも楽しみも、すべてから解放された真黒なところに、彼女はこっそり立っていた。そこは凍えんばかりの冷たさで覆われていた。寒くて寒くて、昆虫一匹いなかった。だから、彼女は目を覚ましたときにこう言った。



「……うっ、さむい」













ひたひたと彼女の足音だけが響く空間。そこはやはり真暗で真黒で、なにも見えやしなかった。しかし、彼女は歩くことをやめなかった。彼女は出口を探していた。この果てしない暗闇から逃れる場所を、太陽の光が差し込む場所を、彼女は探していた。ひたひた、ひたひた、裸足のまま歩いた。










歩けど歩けど果てはない。天井も、壁も、床も、ましてや窓だってない空間に、手を触れることはできない。爪先をぶつけることはできない。彼女は疲れていた。ひさしぶりに足を使った、手を使った、心臓を、使った。疲れるはずだ。しかし、彼女は出口にたどりつくという欲求を諦めようとはしなかった。彼女はひさしぶりに脳みそを使うことにした。うんうんと唸り、眠っていた脳みそを叩き起こす。さて、出口はどこだろう?脳みそを使った。











指を使って手を丸めた。石のように屈強そうに見える。彼女はそれを振り上げ、なにもない闇を叩いてみた。こおん、こおん、と空間中に音が反響する。触れるはずのない闇に触れた。やはり、脳みそを使ってよかった。再び闇をノックした。こおん、こおん。











彼女は脳みそのひらめきに気付いた。さっき使ってみた部分があるではないか、と脳みそがささやいた。彼女は脳みそに感謝して、うんうんと唸り声を上げた。そして、闇から空気を吸い込んだ。



「おーい、おーい、出口はどこだろう」



彼女はしばらくその台詞を叫び続けた。














返事がない、という事実は彼女を落胆させるには十分だった。彼女は床のないはずの闇に座り込んでしまった。どんなに呼んでも、だれひとりとして答えてくれやしない。そのうち淋しくなって、めそめそと泣き始めた。しくしくと泣き始めた。彼女は泣き始めたつもりだった。ところが、彼女の瞳からはちっとも涙がこぼれていなかった。水分すら感じられなかった。彼女は自分が泣けないことに気が付いた。彼女はますます淋しくなって、わめき始めることにした。



「うわーん、うわーん、だれひとりわたしを知らないでいるなんて!」















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