82:隠す者




「うちのクラスってあやしいひと多いやろ、ありえへんくらいに。どんなに隠すのが上手なひとでも、あやしい人間には必ず監視の目や調査の足が向くもんなんや。それをどんな風にかわすか、ごまかすか、騙すか……ってのが、あやしーひとには最も重要なことやねん。俺たちはそれに対して細心の注意を払ってん。そんななかで、まひるちゃんは、…………そもそも疑われてすらおらんのやで」

志摩くんは私を観察的な眼差しで見据えた。

「上のひとからただの生徒としてしか見られてへんの、ま、知らんやろうけど。あの支部長はんの手がどんくらい及んどるのかは分からん、にしても逆に不自然なくらいに何の関心も持たれてへん。怪しいんやよ、まひるちゃん、自分が思ってるよりもずっとな。でもそれに気づいてんのはほんとうに近しい人間……分かりやすく言うと、『まひるちゃんと実際に接触した人間』にしか怪しまれてないんよ。なんでなんやろうなあ、その原因がちーっとも分からんから、みんな血相変えてその『隠し事』を暴こうとするんや。……怖いから、恐ろしいから、脅かすから、……未知は俺らを急き立ててる」

すっと、志摩くんの目が細まる。
彼もまた私を怖がっているのだろう。この知識を与えてくれる行為は、彼にとっての詮索だ。それが分かるからこそ、私は私の『隠し事』を教えることはできない。でも、

「私の『隠し事』はみんなが思っているほど大したものではないよ、けれど隠し続けることがみんなの脅威になっているんだね。ようやく分かった、私が追い回される理由が分かったよ……」

ハイドアンドシーク、隠す者と追う者は常に共に在り、在らねばならない。しかし、私は誰にも追われなかった、最も追わねばならない存在が私を看過したのだ。霧隠先生も雪男くんも、私を怪しむわけだ。雪男くんはちょっと八つ当たりだったけどね!

「せやったら、追い回されない理由は分かる?」
「それは分からないな、何故だろうね」
「他人事やんなあ、結構大事なことなんやよこれ。お偉いさんになんて説明したらええんか……」
「疑われてないんだったら説明しなくていいんじゃないかな、そこはもう志摩くんの采配にお任せするよ」

もう私は自分のことさえ分からないことばかりだった。どうして私が疑われないのか、どうして直接接した人間だけしか疑わないのか、何がそうさせているのか。……何ひとつ分からない、これもまた、……異世界から来たからなのだろうか。便利だなあ、この理由。単純で、一番不可解だ。

「志摩くんはさ、楽しそうだもんなあ」

秘密を持ち続けることが、嘘を吐き続けることが、隠し事をし続けることが、疑われ続けることが。……そんなことを楽しめるなんて、少しも考えたことがなかった。だってそれは辛いばかりだったから。

「考えすぎなんやよ。それは隠しておかなければならんことかもしれんけど、必要であって絶対やないんやろ。せやったら、話したくなったら話してしまえばええ。それが辛いんやったら、なおさらな」

必要であって、絶対ではない。だったら、私は何を隠していると打ち明ければよいのだろう。異世界の人間であること?記憶を忘却させられていること?メフィストさんの指示に従っていること?燐くんを危険にさらしていること?悪魔を創り出せること?……私は、いったい何を隠したがっているんだろう。

「何やそれ、まひるちゃん自分がなに隠してるんか自覚あらへんの?……それはまた不毛やなあ」
「まったくもってそのとおりだよ」
「じゃ、何がしたくて何がしたくないん」

それなら、分かっている。……―――独りになりたくない、そうだ、私は隠しておきたいんじゃない。独りになりたくないから、隠すんだ。ただひたすらそれだけのために、それだけのせいで、こうして嘯き誤魔化し続ける。

「志摩くんは、隠し事がしたいんだね」




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