75:jamais
手元の缶を持て余し、中身を捨ててゴミ箱に放り投げようかと思ったまさにそのときだった。
脳髄を揺らすように激しく爆発する衝撃、瓦礫の崩れる音、……人工的な崩壊現象だとすぐにわかった。
アマイモン、だ。見なくてもわかる。あいつは今、燐くんと「家族会議」をしている。そのためにわざわざここに現れたのだから。
どうしよう、……目立った行動はしたくない、でも何が起こっているかは把握しておきたい。メフィストさんからの要求だったネイガウス先生の監視は終了している。だからその後任であるアマイモンの面倒まで見る義務は、私にはない。
それでも私はあいつの行動を見張る必要がある。無論、あいつの身勝手が私の不都合につながるからだ。
だから、あまり危険なことは遠慮したいのだけど、
「チェイサー、」
急いで試験の際に創ったカメラ型の悪魔――チェイサーを呼び出した。
「アマイモンを追跡、だけど近づきすぎないように、影から様子を窺う程度に。人には、特にアマイモンには注意をしてね」
背を撫でながら用件を伝える。ビシッと羽根を折り曲げたチェイサーを爆発音のした方へと向かわせた。チェイサーは小型とはいえ見つかってしまう心配がないわけではない。しかし、ここで新しい悪魔を創るような無策なこともしたくない。これは「とっておき」なのだから。
チェイサーから送られる映像を脳内で整理しながらどこか落ち着いて観察できる場所を探していた。ふらふらとした足取りで。
視認する映像と脳内で遠慮なく流れ続ける映像とで二重に物事が動く。それがひどく気持ちが悪い。酔いそうだ。
早くどこかへ……、っ、
「すみませ、ん、……あ、勝呂くん、……?」
「杉さん!大丈夫か!」
ぶつかってしまったのか。よろけて倒れそうになったところを引っ張って起こしてもらう。顔色悪いで、と言われて自分が存外余裕のないことに気がついた。
「あ、れ、……山田くんは?」
「あいつか、あいつは何や知らんけど血相変えてあっちに行ってしもたんや」
そう言って指差した先は、あの崩れ落ちたジェットコースターのレールだった。
山田くんが、何で……?
「俺もよう分からんけど向かおうと思っとったんや。一人やったら無茶やけど杉さんがおったらええかな、杉さんも「だめ!」っ、……杉さん?」
ッあ、思わず、声が出てしまった。だめだ、今行ったらだめだ。
脳裏にちらつく青が、鬱陶しい。
「あ、いや、その、な、何が起こっているかわからないなら、なおのこと先生を呼びに行ったほうがいいと、思う。たとえいなくてもみんなそこに集合しているだろうし、みんなの安全を確認することのほうが大事だよ。幸いお客さんはひとりもいないんだし、……そ、そうしよう、勝呂くん、そうするべきだよ……」
よくもまあ、回る口だ。勝呂くんがあっちへ向かうことは事を厄介にするだけだ。アマイモンも彼に手を出しかねないし、私まで同伴すれば事は最悪だ。
山田くん、は、…………まだ着いていないようだ。現場にはいない。
一度、チェイサーからの映像を絶つことにした。
「……杉さん、ほんまに大丈夫なんか」
「う、うん、……ちょっと気分が、」
私の様子に勝呂くんは気を遣ってくれたらしく、「まあ、」と語調をゆるめた。
「他の奴らもあっちにすぐ突っ込むほど無謀やないやろ。奥村は、さておき。せやから杉さんの言うとおり集合場所に向かうことにするわ。体調も心配やしな」
「……うん、ありがとう」
なんだか、とても、頭が重かった。