06:だってまだおとなじゃないもの


唖然としていると、再びあのどこでもドアで自室へと追い返された。まだいろいろ聞きたかったのに。
とりあえず、私は直ぐにベッドへダイブした。そのまま毛布を被り、枕に頭を突っ込む。

ああ、なんて一日だ。散々だ。疲れた。

私はパラレルワールドから来た人間で、前の世界の記憶は悪魔に食べられて、知らない高校に通うことになって、それに高校一年生に遡っていて、このことは家族内で私だけしか知らなくって―――。
今は、祓魔師になるか選択を迫られている。

ふと、枕元に置いてあった携帯を見れば、スライド式の真っ黒なものだった。見たことのないうさぎのキャラクターのストラップが付けてある。
これは、前の世界でも同じものだったのだろうか。やっぱり、分からない。

思い出そうとすることが無意味だと分かっていても、それでも思い出そうとする自身を嘲笑すると同時に、泣きたくなった。
馬鹿なことをしているものだ。辛くなるのは自分なのに。

雑念は首を振って追い払って、もらった紙の番号をアドレス帳に登録することにした。
名前は、メフィスト・フェレスでいいか。なんか表向きの名前だとかどうとか言っていたけれど。

しかし、どうしたものだろうか。祓魔師になるか、否か。
正直、悪魔がどれくらい危険なものなのか全く分からないので、覚悟が出来ないのだ。
無知であれば、不安定になる。

ああもう嫌だ。考えることに嫌気が差す。もう、寝てしまおうか。

意識がぼんやりとしてきて、思考回路も止まりつつある。
瞼も重くなり、全身の力が抜けていく――――…。



「まひる!なに寝ようとしているの!」

「ひッ、いった!」

今正に夢の中に落ちようかとしていたそのときだった。
バチン。私の背中にひりひりとした痛みが走る。

「明日は入学式でしょう。こんな変な時間に寝たら、朝が起きられなくなるじゃない!」

勿論、私を叩いたのは母だ。大層ご立腹の様子で、眉間の皺が何時にも増して多い。
このときの母は、酷く怖い。

「準備が出来たからって寝ていいなんて言っていないわよ。正十字は全寮制なんだから、暫くは帰って来られないのよ」
「え、そうなの」
「自分が通う所の制度くらい理解していなさい!全く…」

呆れ顔の母に私は苦く笑う。そりゃ知る筈もないよ。
そんな表情を一変し、母は笑顔でリビングの方を指差した。

「お父さんも帰って来たから、夕食にするわよ。今日はごちそうなんだから」
「ほんと!やった!」
「じゃあ早く手伝いしなさい」
「はーい」

ごちそうというワードに喜びながら、スキップでリビングへと足を急がせた。
ステーキかなあ、なにかなあ。



先程の憂鬱が何時の間にか消え去っていることに、浮かれる私は気付かないでいた。




mae ato
modoru