51:幕引きにスケルツォを


隠すのを、忘れていた。



「(ちょっ、あの、えーっと、もうなんでもいいから!とりあえず急いで私が泊まっている部屋に行っといて!誰にもバレないようにね!急いで!)」
「まひるちゃん、汗すごいで」
「ええ?そう?なんでもないよ?」

ビシッと敬礼を決めたカメラの悪魔は身を翻して飛んでいった。
あー、よかった。


「あ、あれ?勝呂くんは」
「あそこ」
「なん…なんやお前、「フンブ!?」なんて奴や!!!!死にたいんかーーッ!!!?」
「ぼ…、坊――ん!!!!」

「おお、きれいなラリアット」
「拍手したらあかんよ」

何に怒ったのかよく分からないが、勝呂くんが帰ってきたばかりの燐くんにラリアットを決めていた。

「それより、志摩くん」

ごちゃごちゃ言っている人達を無視して、私は志摩くんの顔を見上げる。志摩くんは首を傾げた。

「あの、ありがとうございました。受け止めてくれて」
「あー、ええよ。痛なかった?」
「全然。志摩くんが受け止めてくれたおかげで」
「そらよかったわぁ。屍番犬の体液浴びとったところは?だいじょうぶなん?」
「すぐに拭いたから、ちょっと火傷したくらい。今はもう気分も悪くないよ」
「なんか耐性ついとるみたいやなぁ」
「そうだね」

そんな耐性ついてもなあ。志摩くんの言葉に苦笑いをこぼす。



屍番犬を退治したことと無事に燐くんが帰ってきたことに一同が安心していると、

「…これは、」
「!」「先生」「雪男」

あの鬼教官、奥村雪男先生が現れた。

「! ネイガウス先生」

それに続いて姿を見せたのは、先程の悪役先生もといネイガウス先生。


そのひとに過敏に反応した燐くんを、見逃さなかった。


「ゆ、雪男、そいつ、」

燐くんはすぐに己の中に抱いているその正体を雪男くんに伝えようとした。


が、


「てきング!!??」
「おや、失敬」

突如ずらされた天井から現れた男―――メフィスト・フェレスによって、それは叶わなかった。
狙ったかのようにそのタイミングで下りてきたそのひとは、私がいまいちばん会いたくないひとナンバーワンの男だ。うげ、と露骨に顔を歪める。

「ハ〜イ、訓練生の皆サン大変お疲れサマでした〜」
「メ…、メフィスト!?」
「??? あれっ…て、理事長か…?」「どーゆうこと…?」


「ふぁっふぁっふぁ!」


なんだその笑い方…。

どうやらネタ晴らしをするようだ。ぼんやりと驚いているみんなの顔を一瞥していると、テレビでドッキリ番組でも見ているかのような心地になる。


「この理事長が中級以上の悪魔の侵入を許すわけがないでしょう!」


パチンと指を弾き、それに合わせて天井から床から押入から…と、次々に祓魔塾の先生方が出現してきた。
打ち合わせでもしていたのか、構成がしっかりとしすぎている。先生方も楽しんでいるのではなかろうか。これ毎年やっているのかなあ。

「医工騎士の先生方は生徒の手当てを」
「??? え?」「……まさか」


「そう!なんと!この強化合宿は候補生認定試験を兼ねたものだったのです!!!」


サプラーイズ!と愉しげに話すメフィストさん。最早ここまでくると呆れて物も言えない。
静かに溜息を吐く。志摩くんが不思議そうに覗きこんできたので、なんでもないと首を振った。

「合宿中はそこかしこに先生方を審査員として配置し、皆さんを細かく審査していました。これから先生方の報告書を詰んで私が合否を最終決定します。明日の発表を楽しみにしていてくださいネ」

最後の台詞と同時に、メフィストさんはウインクをする。けっ、白々しい。


心の中で悪態ばかり吐いていると、ふっと私の上に影が出来た。そちらを見れば、雪男くんが注射器を持ってこちらを見下ろしている。

「杉さん、起き上がれますか」
「…奥村先生、」
「志摩くん、彼女を少しだけ起こしてください」
「ほぉい」



「彼女は結構ですよ、奥村先生」
「! フェレス卿」



雪男くんとはそれなりに和解(?)をしていたので素直に手当てを受けようと思ったら、メフィストさんがいた。

「フェレス卿、どうかなさったんですか」

私も雪男くんと同じ質問をしようかと思えば、がっつり手首を掴まれそのまま無理矢理立たされる。



え?



そう言いたげな顔をしたのは私だけではなかった。そこにいる一同全員だった。

「ちょ、ちょっと、メフィストさん…!」
「黙ってついて来なさい」
「はッ、」
「それでは、みなさん。お大事に」

部屋を出る前に見えたのは、唖然としているみんなの表情だった。


mae ato
modoru