48:試験の幕開け


「それなら問題ないよ。私、ダガッ「言うてる場合か!女こないになっとって、男がボケエーッとしとられへんやろ!」三輪くん、ちょっと勝呂くんのとさか黒染めしてもいいかな」
「すみません、勘弁したってください…」

私の威張りつつの台詞を、非常に残念なことに妨害された。私の提案に三輪くんは苦笑している。

「さすが坊…!男やわ」

勝呂くんの発言に感心した志摩くんが、ふっと微笑んで胸元に手を伸ばした。そうして取り出すのは、―――おそらく錫杖、だ。生は初めて見た。

「じゃあ俺は全く覚えとらんので、いざとなったら援護します」
「志摩、おお!仕込んどったんか!」

ギリッ。睡眠時間覚えていやがれ。朝起きたらとさかがピンク色になっているから。黒なんて優しいことは、今のことでやめにした。

「ぼ、坊!杉さんもなんか持っとるみたいですよ!」
「ナイス三輪くん!」

どうやらぶつくさ言っていたのを三輪くんが聞いていたようだ。勝呂くんにさりげなくアピールしてくれた。
三輪くんはいいひとだなあ。拝んでおこう。頭とか、ほら、ご利益ありそうな感じがするから。

「は?」
「は、じゃないよ。私もダガーナイフ持っているから、援護しつつ、詠唱みたいな」
「そんな器用なこと出来るかボケェ!」
「なんだとこのナリヤン」
「はァ!?」

でも、よくよく考えてみると確かに戦いつつ詠唱は無理か。私も無茶を提案したもんだ。
勝呂くんがぎゃあぎゃあ騒いでいるけど、無視。私は私で冷静になれるし、考えもまとめられる。

「おいっ、てめえ!」
「うるさいよ勝呂くん。……うーん、じゃあ、援護に回る。詠唱はふたりでしよう」
「はァ!?手前、仮にも女やろが!前線に出せるか!」
「なんでここで男女差別…」

まだまだ反論してくる勝呂くんを納得させるべく、私はきつそうな杜山さんの方を見た。息は荒いし、ニーちゃんも心配そうだ。

「あーもう。ね、杜山さん、しんどい?」
「…は、はッ、だ、大丈夫…」

とは言うが、明らかに大丈夫な顔色ではないしきつそうだ。キッと勝呂くんを睨む。

「分かった?杜山さんの体力ももう底が尽きそうでしょ。詠唱は何処に当たるか分からないし、この状況で戦闘員は多い方が良い。これでもダガーナイフの訓練くらい受けているから」
「………、な、なら、頼むわ。信用しとくぞ」
「お願いします」
「うん、任せて。この前も風呂場で対峙しているし、怖気づいたりはしないよ」
「まひるちゃん男前やわぁ」
「嬉しくないな」

「む、無謀よ!!」
「……」

納得してくれた。とか思ったら、今度は神木さんだった。

神木さん、心配しなくてもこれは試験だから。大丈夫。とは言えないので黙っている。

「さっきまで気ィ強いことばっか言っとったくせに…、いざとなったら逃げ腰か。戦わんのなら引っ込んどけ」
「………」

「勝呂くんの鬼のような一言」
「出雲ちゃんと仲悪いもんなぁ」

そんな辛辣な台詞を吐いてから、勝呂くんは私達の方を向いた。

よし、詠唱開始だね。

「子猫丸は一章めから、俺は十一章めから始める」

さくさくっと指示をしていく勝呂くん。それにしても、しっかりしている。

ボンボンだし、一人っ子だし、いつも周りに甘やかすひとがいるから結構ぐうたらしているのかと思ったけど、発言も発想も男前だ。なんでとさかに染めたのか不思議なくらいに。

「ええな、つられるなよ!」
「はい!」
「いくえ!」

「志摩くん、がんばろう」
「もちろんやで。まひるちゃんがおったら元気百倍やわぁ」
「……」
「少しはノリにのったって!」
「はいはい。私は野球できないから、志摩くんに新しい顔を投げるのは無理だよ」
「じゃあわんこで」
「やだよ」
「ええやん、わんこ。かわええし」
「なんで犬…」

「おい!手前ら真面目に構えとかんか!!」
「ほら、ボンおじさんが怒っているよシマパンマン」
「そら困ったわぁ」

くすくすとふたりで笑って、それからダガーを構えて前を睨んだ。

「“大初に言ありき!”」「“此に病める者あり…!”」




さあ、試験に参戦だ。





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