41:リボン結びしたら


「これ、見るの楽しい?」

試しに尋ねてみたら、慌てて首を振られた。

「べ、別に楽しくねえよ」
「だろうね。燐くんは雪男くんの付き添いだから分かるんだけど、
「何で兄さんが僕の付き添いなんですか。普通逆でしょう」「何言ってんだよ!」
 はいはい。出雲さんは?」
「えっ、あ、あたしは、」

これでお見舞いに来たよとか言われたらどうしよう。ちょっとだけ嬉しい。
いや、出雲さんは杜山さんにああいうことをしている子だけどね。それを抜きにすれば、嬉しい。
ところであの問題は解決したのだろうか。

「あたしは朴のお見舞いに行ったついでよ!あんた友達居ないから、見舞いに来る人も居ないだろうと思って来てやったのよ」
「ええええ」

そ、そんな直球勝負…。もう少しオブラートに包んで言ってほしかった。雪男くんの言葉より胸に刺さる。

いや、友達はちゃんと居るんだ。塾内に居ないだけで。……うん、悲しくなってきた。

「た、ただ、あんたのおかげで朴の火傷もあれくらいで済んだし…、時間稼ぎにもなったから、そ、そこは助かったって思っているって伝えに来ただけよ…!」
「……い、出雲さん」

…なるほど、これは、典型的なツンデレという可愛い女の子ですか。つまりあの酷い言葉は前置きということですか。自惚れても良いですか。

「そんな、ほんと、時間稼ぎだったから、私は別に…。でも、ありがとう」

素直な礼を述べると、出雲さんの顔は真っ赤になった。可愛い。

「かっ勘違いしないでよ!朴のついでなんだから!」
「それでも、ありがとうございます、出雲さん」
「っ、気安く下の名前で呼ばないで!もう帰る!」
「あ、」

そう言ってバタバタと出雲さんは出て行った。ツンデレかー。
ということは、杜山さんにしていることも実はツンデレなのだろうか。友達になりたいけど素直に言えないから、まずはパシリからっていう。

…そういえば、

「出雲って、下の名前なんだ」
「神木出雲さんです」
「出雲って名前可愛いなー。呼びたいけど、神木さんって呼ぼう」
「……治療、終わりましたよ」

「あ、ありがとうございます。奥村先生、あと何日で動けそうですか?」
「もう動けるんじゃないんですか?象並みですし」
「もうその攻撃は効きませんよ。それは良かったです。じゃあ、授業に戻ろう」
「真面目だなー、俺なら休める限り休むぜ」
「はは、燐くんと一緒にすんなっと」
「ブフォッ」

立ち上がるついでに燐くんの頬に一発決めておいた。雪男くんも殴りたいので振り返って構えれば、銃口を向けられた。
軽いジョークだが、命は惜しいので両手を上げる。

「おいまひる!てめえなんで急に殴ンだよ!」
「神木さんとか杜山さんのことは覚えていたくせに、私のことだけ忘れやがって」
「…あ、昨日のことか?」
「それさえも忘れているとは。よし、もう一発…って、うわあ」

くらりと眩暈がし、構えた腕を下ろす。どうやらまだ後遺症が残っているみたいだ。

「はは、無理すんなよ」
「ちっ、完治したら殴る」
「わーるかったって」
「まあ、実際そんなに気にしていないんだけど」
「じゃあなんで殴ったんだ?」
「……」

いや、もう何も言うまい。下心があったわけではないんだ、志摩くんみたいに。

私はベッドの足元に忍ばせていたぬいぐるみを二人の視界に映らないように取る。

さて、退室する、

「杉さん」

……ことは出来ないようだ。

「なんですか…」
「少しばかり二者面談をしませんか?」
「拒否権は、」
「ありません」
「ですよね」

「どんまいまひる!じゃ、俺はこれで失礼するな」
「杜山さんにフラれてしまえ」
「し、しえみは関係無ェだろ!!」

そんな真っ赤な顔で言われても説得力がなさすぎる。

私は、黙ってベッドに腰掛けた。



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