02:此処は誰、私は何処
「混乱しているご様子ですね」
笑いながら男が言う。
当たり前だ。急にどこでもドアで見知らぬ部屋に拉致されたのだから。
「貴方、は、誰、なんですか」
私はなんとか声を絞り出した。恐怖と不安で身体中が震えている。
「私はメフィスト・フェレスといいます。以後お見知りおきを」
紳士的に挨拶をする男――もといメフィスト・フェレス。本当に漫画から出て来たみたいだ。
だって、名前も格好も何もかも、現実味がない。
何も言わない私の方に、男は人差し指を向けてきた。
「貴女は杉まひるさん。明日からこの正十字学園に通う女子生徒の一人」
後半は初めて知りましたが。
「ですが、」
え、Butって。
「本当は現役女子高生で、何故か見知らぬ高校へ再び通うことになっている女子生徒、でしょう?」
「っ、え、」
露骨に驚愕を示した。
なんで、知ってるのこの人。お母さんでさえ知らなかったのに。
「驚いていらっしゃいますね。まあ、無理もないでしょう。
―――貴女は、異世界に来たのですから」
「はッ、異世界…!?」
「ええ、此処は貴女の居た世界とは異なります。現に、貴女は自室からこの部屋へ来ているでしょう」
信じられない。と言うつもりだった。しかし、その言葉を呑み込む。
フェレス、さん、が言っていることに説得力がある為にだ。
確かに此処はまるで「二次元」のような所だ。どこでもドアがあり、漫画の登場人物のような男が居る。
でも、どうしてこの人はそんなことを知っているのだろうか。
疑りの眼差しでフェレスさんを見つめると、立ち話もなんですからと私にソファを勧めた。
動揺している気持ちを落ち着かせる為にも、私は素直に頷いた。嫌な汗が背中を伝うのを止めたくて堪らない。私がふかふかのソファに腰を沈めると、すかさず紅茶を淹れたカップを差し出した。
最初は変な人だと思ったが、意外と紳士的で優しい人だ。少しばかり好印象を持つ。
一口飲むと、ほっと安堵の溜息が出た。それを確認すると、フェレスさんは再び口を開く。
「異世界と言いましたが、正式には“パラレルワールド”と呼ばれるものです。平行世界とも呼ばれますが、ご存知かと。
これらの世界は全て何かしらの共通点を持ち、何かしらの相違点を持ちます。しかし根本的なものは同じの為、全ては繋がっています。
つまり、何処かの世界で大きな“異変”が起こると、他の世界にも少なからず影響が出てしまうのです。
此処まではご理解いただけますか?」
首肯すると、満足げに頷かれた。
「実は昨晩、此方で大きな“事件”が起こりました。それは、他のパラレルワールドに影響を与えると言っても過言ではない程のこと。
お尋ねしますが、昨晩なにか起こりませんでしたか?」
探るように見られ、居心地が悪く感じた。
しかし困ったことに、私にはしっかり思い当たる節がある。
「昨日の昼間に、突然空が、真っ暗に、なりました。本当に、一瞬だけ」
私の言葉に、ニイと、男の口角が吊り上った。