27:頭上で悪魔が嗤った



メフィストさんの言った通り、奥村先生はアンケートを配布し始めた。

来週から一週間とは、予想以上に長期間だ。まあ、寮生活をしている一同にとっては就寝する場所が違う程度だろうが。
しかし、あんなお化け屋敷で寝泊りとは辛いものだな。何か出たらどうしようとか言ってみせるが、言い換えればそれは悪魔なのだ。そう思うと、いっきに恐怖心が失せる。

アンケートを受け取り、即座に参加と詠唱騎士、騎士の項目に丸をする。名前を書いて、いつでも提出できる状態にした。
今日にでも奥村先生に渡してしまおう。

「あ、一緒やで。俺も詠唱騎士取るんよ」
「志摩くんが?」
「似合わん?」
「いや、かっこいいんじゃない」
「ほんま?」

嬉しそうに笑う志摩くん。いつこちらに来たのだろうか。そう思ったが、何も言わないでおいた。

「しかし、坊もやけどまひるちゃんも気張りますなあ。二個も取るん?」
「坊くんも二個取るの?」
「そうやで。なあ、坊」
「何や」
「坊も二個取られはるもんな」

志摩くんに続いて坊くんまで来てしまった。背が高い。それに続いて坊主くんと燐くんまで来た。
なんだこのイケパラ。思わず身構えた。

「まひるちゃんも、詠唱騎士と騎士やってー」
「ほうか。俺も詠唱騎士と竜騎士取るんや」
「へえ、坊くん頭良いもんね」

「……、ん?」

私の言葉の後、志摩くん以外の三人の動きが止まる。何かまずいことを言ってしまったのだろうか。

「え、えっ、何か言った?」
「な、まひる、お前今なんて?」
「だから、坊くん頭良いもんねって…」
「ぷッ」
「お、奥村くん止めといて…」

大笑いする燐くんを、坊主くんが嗜めた。あれ、何のことなのだろうか。

「ええーっと、まひるさん?」
「な、なんだろう坊くん」
「……。志摩、お前か」
「違いますよう、俺が坊って呼びよったらまひるちゃんも坊くんって呼ぶようなっただけやって」
「え?坊くんって坊って名前じゃないの?」
「ぶはッ、」

どうやら名前のことらしい。志摩くんが坊くんのことを坊と呼んでいたから、その名前だと勘違いしていた。あれはあだ名だったみたいだ。
爆笑している志摩くんと燐くんが腹立たしい。

「ま、まあ、ちゃんと自己紹介しとらんかったからしゃあないけど…」
「ご、ごめん!あ、私、杉まひる!」
「俺は勝呂竜士や。坊はあだ名やから、呼ばんでええ」
「う、ん。勝呂くん。よろしくね」

それなら、僕の名前も知らんですよね。と、坊主くんが笑いながら言う。
それを聞いて罪悪感が。今度塾生名簿でも貰おうかな。

「三輪子猫丸いいます。杉さんでええですよね」
「うん。ごめんね、よろしく」
「気にしとりませんよ」

にぱあと笑う三輪くん。え、なんだろうこの癒し。

「で、杉も騎士取ンのか?」
「うん。燐くんも?」
「おう!」

肩に担ぐ刀を見せながら笑う燐くん。

彼についての詳細は、メフィストさんに再度尋ねた。彼が持つその刀の名は、降魔剣“倶利加羅”。この刀に青い炎を封じ込めているそうだ。それならまあ、騎士を取るのが妥当だろう。

「次の授業って、なんだっけ」
「魔印や」
「ほな、行こか」
「おう。まひるも行くだろ?」
「え、あ、うん」
「杉さんいつも一人でいらしますから。たまには大勢もええもんでしょ」
「……、うん、そうだね」

三輪くんの言葉に思わず目を細めると、四人もにっこり笑った。

こうしていると、なんだか普通の―――。




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