26:たのしい合宿のおしらせ



まどろみからそっと離れ、まひるは目を覚ました。随分と長く眠っていた気がする。
きちんと掛けられている毛布を見て、はて何時ベッドに潜ったかと記憶を巡らせた。しかし、自分で自室に来た覚えはない。

―――そうだ、思いだした。
若干の筋肉痛で痛むふくらはぎを撫でる。

そういえば、メフィストの部屋で意識を失ったのだ。もとい、寝てしまったのだ。やらかした。

時刻を確認すれば、五時二十七分。学校までにかなりの余裕がある。そろりとベッドから這い出て、制服へと着替えた。
そうして、深呼吸をする。

扉を開ければ、メフィストがデスクでパソコンのキーボードを叩いていた。彼とパソコンはどうにも似合わない。

「おはようございます…」
「おはようございます。よく休めましたか?」
「はい。……あと、ありがとうございました」
「いつ寝首をかかれるか、見物ですねえ」
「今度からは気を付けます!」

張り合うように語気を強めると、メフィストはくつりと笑った。未だ先手は取れない。

「朝食はまだですので、少し話でも」

朝はダージリンなどいかがです?紳士的にそう尋ねられ、まひるは首を縦に振った。
デスクの正面にあるソファに腰を下ろすと、すぐに紅茶がテーブルに置かれる。

「本日の塾で強化合宿についてアンケートが取られます。候補生認定試験のための強化合宿だと称されていますが、実際は合宿中に試験が実施されますのでお見知りおきを。
参加と称号についてのアンケートですので、無論参加をしてください。あと、称号は取り敢えず詠唱騎士と騎士で良いでしょう。竜騎士まで伝える必要性はありませんから」
「はあ、分かりました」

候補生認定試験のための強化合宿だったのか。それがあの旧男子寮で行われると。

え、じゃあ全部掃除しなくても良かったんじゃ?塾生超少ないし。うわ、無駄手間。
まひるは心に積もった文句を抑えるために、カップを持ち上げた。

「もうひとつ、本日の魔法円・印章術では手騎士の才能があるかどうかのテストが実施されますが、貴女は何も召喚しないでください」
「はい?いや、でもそれって天性の才能が必須なんでしょう。私に才能なんて、ないと思いますが」
「可能性がゼロとは言えないでしょう。此処で異例な悪魔を召喚されては、説明が面倒になりますから」
「要は仕事を増やすなということですね」
「よろしくお願いします」

それにしても、手騎士か。実際に見たことがないけれど、きっと召喚できたらかっこいいんだろうなあ。

……。

まひるは自分が召喚している姿を想像し、しばし躊躇った挙句に口を開いた。

「手騎士、才能があれば称号取っても良いんですよね」
「興味が湧きましたか?最初は拒んでいたでしょう」
「まあ。でも、才能があるなら活かさない手はないかなと」
「騎士、竜騎士を取ってからにしてください。二の次ですよ」
「う、分かりましたよ」

あの辛い修行は、称号を取ってしまうまで続くらしい。何年かかることか。さっさと終わらせてしまいたい。

顔に出やすいまひるのしかめっ面を見、メフィストは喉を震わせた。





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