23:接点を探せ



さて、いつもより早めの休日である。

早速掃除用具を持って旧男子寮へと向かった。もうほとんど終わりつつあるため、今日一日頑張ればきっと終わるだろうと予想される。
せっかくの休みなのにこうして仕事に勤しむ私はなんて真面目なのだろうか。少しだけ涙がこぼれそうだ。
昼ご飯は後にするとして、取り敢えずは掃除用具だけを持って旧男子寮へのドアを開いた。





「あっとは、トイレと手洗い場と風呂場だけ…!」

各部屋と廊下と階段、窓までは午前中までで終わらすことが出来た。奥村兄弟が使用している部屋、風呂、トイレ、あとキッチンは掃除をしなくて良いため、幾分かは楽になる。
ではこれからお昼ご飯でも買いに行くとするか。

「おー、今日もやってんのかー」

外に行こうとしたが、前髪をピンでとめてゴリゴリ君を齧りながら現れた奥村兄により阻まれた。呑気そうなその姿にイラッとする。

「そうだよ」
「あとどのくらいなんだ?」
「トイレと手洗い場と風呂場」
「もうあと少しじゃん。頑張れ」
「うん」
「で、今から何処に行くんだ?」
「…昼食を、買いに」

ほう、と納得したかと思えば、うーんと唸りだす。昼食がどうかしたのだろうか。

「あ、あのよ、」
「はい?」
「ひひ、昼飯、俺が、作ってやる、よ」
「…へ、」

照れながら何を申すかと思えば、そういうことか。昼飯代浮きそうなら良いかなあ。

「燐くん、料理得意なの?」
「まあな」
「じゃあ、お願いしようかな」
「お、おう!任せろ!」

得意げに頷き、浮かれた足取りでキッチンの方へと歩き出す。私もそれに続いた。

よし、取り敢えずは昼飯代の五百円は私のポケットマネーになりそうだ。やったね。



あっという間に出来上がったのは、美味しそうなオムライス。手伝おうかと言ったが、全力で拒否された。まあ、でも手伝わなくてよかったみたいだ。
うーん、すごく良い匂いがする。

「すごいねえ、燐くん」
「料理だけは得意だからなー」
「へえー。よし、では、いただきます…」
「おう!」

スプーンで一口分すくって、口の中へ。

―――!こ、これは、

「美味しい…!すごい、お店よりも美味しい!」
「ほ、本当か!」
「うん。うわー、めちゃくちゃ美味しい」

文句の付け所がないくらい、とても完璧な味だった。思わず感動してしまう。

直ぐに食べ終わって、満面の笑みで礼を述べた。燐くんは照れたように笑っていた。これは燐くんに頼んで間違いなかったな。

「燐くんってただの不真面目な奴かと思ってたけど違うんだね。料理が得意だなんて、立派な長所だ」
「ふ、不真面目な奴って…」
「これはハマるなぁ」
「たまに食べに来いよ。俺、大抵の物は作れるし」
「じゃあたまに来るね」

奥村雪男くんが居ないときに。こっそり心の内で付け足す。

「ところで、何でまひるは此処の掃除してんだ?」

あ、そういえば、理由を説明していなかったっけ。メフィストさんも奥村兄弟に伝えていないのだろうか。いや、燐くんが知らないだけだろう。
知らないってことは教える必要がないってことか、隠しておく必要があるかのどっちかだ。前者の可能性のほうが高そうだ。

「私も詳しくは知らないんだけど、やっぱり衛生上の問題じゃない?」
「ふーん、にしてもなんでまひるなんだろうな」
「……暇そうだからかな」
「あー、お前委員会とか入ってねえもんな」
「え、何で知っているの」
「知らなかったのか、俺とお前同じクラスだぞ」

えっ。思わず絶句した私に燐くんは「ありえねぇ」と言いたげな顔をした。
ほんとうに知らなかった。燐くんと、同じクラスだったのか。

「ほ、ほんと?」
「……逆に気付かれていなかったことに傷付いたぜ。名簿確認してみろよ」
「ごご、ごめん知らなかった。うわあ恥ずかしい」
「ま、俺は授業中ほとんど寝てるから気付かねえのも当然かもな!」

軽く笑う燐くん。おそらくそういう問題ではない。

「影が薄い」
「え?」
「い、いや、なんでもない」

余計なことは言わないでおこう。口は災いの元、である。




mae ato
modoru