01:ピンクのドアの先は未知の世界


「なに言っているの、貴女の高校は正十字学園じゃない。阿呆なこと言ってないで寮に行く準備をしなさい」

遅刻しそうだから車を出して欲しいと母に告げると、こんな台詞が返ってきた。
何処だ、そこ。ていうか寮ってなに。

「いつまで馬鹿なことを言っているつもり?貴女は明日から高校生で、正十字に通うんでしょう。
明日は入学式がある上に寮にも移るからその準備をしなさいって言っているじゃない」

苛々しながら早口で述べる母。どういうことだ。
一応曖昧に返事をし、急いで自室へと戻った。ベッドにダイブしてから、今の状況を確認する。

私は高校生二年目の生活を送り出してから今日で約一ヶ月が過ぎるところで、現在は普通の平日で、課外が始まる時間まで後五十分だった筈。
しかし私の部屋のカレンダーは四月で、時刻は午後三時を指そうとしている。格好も制服だったのに私服になってしまっていた。
一体全体私に何が起こったのだろう。

部屋を見渡してみれば、既に入寮の準備は終了したかのようにキャリーバッグが立っていた。真新しくて可愛い制服がクローゼットに掛かっている。
机を見れば、「正十字学園」と印刷されたパンフレットがポツンと置いてあった。
どうやら嘘ではないらしい。だが、信じられない。
呆然としながらも、冷静に夢だと告げる私と、これが現実だと告げる私が居る。
頬を抓るべきか、否か。

―――止めておこう。もう少しして、それからにしよう。

落ち着かせるべく深呼吸をしていると、ガチャリとドアが開けられた。ゆっくりそちらを見る。

えっ。
お母さんかと思っていたら、見慣れない男の人が立っていた。
まるで漫画から飛び出て来たかのような背格好に髪の色。誰だこの人。
警戒しながら私は立ち上がり、距離を取る。
にたりとその人は笑った。犬歯が、鋭い。

「貴女は杉まひるさんで合っていますね」

部屋に入って来られたということは、母にも会っているだろう。
母の知り合い、だろうか。それにしては怪し過ぎる。

「おや、違いますか?」
「いえ…、そうですが…」

アンタ誰。そう聞く前に男は私の手首を掴んだ。
そのまま強い力で引っ張り、連行される。は、はァ?
ドアの向こうへ押し出され足が縺れた。

ふと、異様に明るいことに気付く。あ、あれ。此処は私の家じゃない。
なんで。確かにドアの向こうはリビングなのに。

逃げなくてはと思った瞬間、男がドアを閉めていた。
私は慌ててその人を押し退け、閉められたドアを再び開く。

って、えっ。

「な、えっ、な、んで…!」

そこには全く知らない広々とした廊下が。なんてことだ。
なに、このワープ機能。どこでもドアはピンクだよ―――ってうわあピンクのドアだ。

嘘だろう。

唖然としている私に、男が再び笑った。






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