16:お化け屋敷のおそうじ





学校の授業は、思いの外退屈ではなかった。一度習ったところでもあるので少し退屈だろうと予想していたが、やはり忘れていた部分もあったり通っていたところよりも分かり易かったりしたがために、それなりには楽しめた。

さて、祓魔塾の授業もなんとか終え、少しばかり暗くなった窓の向こうを見つつ、私はドアの前に立つ。

此処は、かの有名なお化け屋敷――もとい旧男子寮である。無人であるので、少し(?)寒々しい。

此処へは何も徒歩で来たわけではない。今朝、メフィストさんが渡した鍵のことを徐に説明し始めたのだ。どうやらこれは、何処へでも行ける鍵らしい。生徒に渡しているのは“塾の鍵”といって、祓魔塾にしか行けないらしいが。
私は特別だと彼は言っていた。喜んでいいのか分からない。

そういうわけで、私はこのどこでもドア的な鍵を手に入れたのである。やったね。

バケツと箒、掃除機に雑巾。ハタキにその他諸々。これだけあれば、大丈夫だろう。私は手始めに一階から手を付け始めた。





「うっ、つ、疲れ、た…」

やっと一部屋が終わったかと思って時間を確認すると、もう夕ご飯の時間が迫っていた。嘘だろう。
時間をかけたので、この部屋は相当綺麗にはなったが、この調子では一ヶ月といっても過言ではないだろう。
今日は後もう一部屋だけでも掃除してしまうとするか。

そう思ってキラキラと輝く部屋を出たときだった。

「…あ、え、なんで、此処に人が、」
「はァ!?な、なんで女子が、」

目の前に、あの黒髪少年Aが。いた。


―――もしや、

「お化けだあああああああ」
「ちっ違ェ叫ぶな!!」

口を押さえられた。セクハラである。私はすぐに口を閉じた。落ち着いたことを確認すると、少年Aは手を離した。

「ふう、つか、お前って確か塾に居た奴だよな」
「うん。杉まひる」
「俺は奥村燐。

 じゃなくって、まひるはなんで此処に居るんだよ」
「掃除、しに来た。ちょっと頼まれて」
「…ふうん、なんでお前が」
「さあ」

メフィストさんからと言うのはやめておいた方が良いだろう。理事長とどんな関係だとか、なりそう。

「それより、奥村くんはなんで此処に」
「俺、此処に住んでいるんだよ」
「…こ、此処に?」
「おう。此処人少ねェよな。他の奴は何処に居るのか知らねェんだけど」
「…」

普段は使われてないんだよと言うのもやめておこう。
なんで此処に。メフィストさんの仕業であろうか。

「おっ、すげえ!めっちゃ綺麗じゃねえか!」
「うん。頑張ったから、ね」

部屋を覗きこみ、奥村くんが感嘆の声を上げる。その隣で私はふふんと鼻を高くした。

あ、そういえば、奥村くんってメフィストさんと一緒に居たよね。昨日。どういう関係なのだろうか。それも確認したい。

「俺の部屋も掃除してもらいたいくらいだぜ」
「きたないの?」
「今は雪男が片付けてくれるから、別にそんな汚くねえんだけど」
「ゆきおって、奥村雪男くん?」
「まひる知らなかったのか?俺、雪男と双子の兄弟なんだぜ」
「そうなんだ」

奥村雪男くんといえば、祓魔塾の先生であり新入生代表だった人。かくいう奥村燐くんは祓魔塾の塾生で、おそらく学園の生徒。
全然違うんだなあ。

「兄さん?そこで何しているの?」
「おっ、噂をすれば」

コツコツと靴音を鳴らしながら、噂をすれば影、奥村雪男くんが祓魔師のコートを着て現れた。



mae ato
modoru