14:すてきな包装




初めての授業が終了し、自分の足でメフィストさんの屋敷に戻った。鍵は使っていない。
屋敷の大部屋の扉を開けた途端、ポンッとコミカルな音が聞こえ、全身が白い煙に包まれる。
時既に遅し。私はあっという間にピンクのリボンでぐるぐる巻きに縛り付けられていた。

「メフィストさんは、こんなプレイがお好みですか…」
「そんなに死にたいのなら、私が後押しして差し上げますよ」
「嘘ですごめんなさい」

ちょっとした冗談なのに、遠まわしに殺すと言う―――ふかふかの椅子に腰掛けた悪魔は、“ゆかた”という文字が散りばめられた浴衣を着ている。なんだその浴衣。

「全く、貴女は後先を考えずに行動するような人なんですね。賢いと思っていたのは見当違いだったようです」
「賢くなんて、ありません。あの、これ、動けないんですが」
「当たり前でしょう。それで、お仕置きは何が宜しいですか」
「お、おしおき…!」
「人の尻尾を踏み付けておいて、何もないなんて言うつもりじゃありませんよねえ」
「ふっ、不可抗力です!」
「あんなに満面の笑みを浮かべておきながら不可抗力とは、異世界人の定義は理解しかねます」
「あああ傘を向けないでくださいいいいい」
「おっと、電話が」

焦る私を無視して、鳴り出したピンクの携帯を手に取った。あれ、私とお揃いな気がする。気のせいだよね。
ガチャリと扉が開いたので見てみると、執事のような男がこちらを凝視していた。
なんという羞恥。どこかイタイものを見るようなその視線に、私は泣きそうになる。
メフィストさんのデスクに桜餅を置き、お茶を用意して早急に立ち去った。最後まで私の方を見て。もうあの人の目を見て話せない。

「―――ふむ。あの炎は悪魔に有効でした、使えます。不安定でまだ感情に振り回されているようですが、センスはいいようだ」

炎?何の話だろうか。話し相手も分からない。しかし、桜餅を頬張っている今がチャンスだ。
私はそろりそろりと足音をたてずに後ずさる。

―――よし、後は扉を押すだけだ。

「まひるさん、逃げたら一週間食事を自腹にしますよ」
「ひいいい承知しましたあああ」

バレていた。

自腹とか言われても、私はほぼ一文無し状態なのだから一週間食事抜きと等しい。私はすぐに扉から離れる。
忌々しげな視線をキャッチしつつ、私は電話が終わるのを待つ。

「―――ただし監視は必要です。使いものになる前に騎士團上層にバレたくないですからね。まあ、時間の問題でしょうが…」

監視が付いている、炎を出す、騎士團上層に隠しているもの。騎士團ってなんだろう。
私はその謎謎の答えを考えていると、メフィストさんが携帯を下ろしていた。終わったらしい。

「やれやれ、肩に力が入りすぎですよ先生。…もっと人生を味わわねば。それに敵は騎士團の上層部だけじゃない。―――そろそろ父親も動き出す」

メフィストさんの独り言は華麗にスルー。
先生?それに、サタンって、確かなんか地獄の親玉的な奴ではなかっただろうか。
今日調べることにしよう。騎士團と、監視の付いている炎を出すものと、サタン。

ぐりんとメフィストさんの顔がこちらを向いた。そのまま鋭く睨まれる。

「本当に後先を考えませんね。逃げようとするとは」
「メフィストさんが敏感肌ということが分かりました」
「貴女には仕事を頼みますよ」
「スルー…。なんですか」

怪しげに笑みを浮かべたメフィストさんに、私は塾の廊下で味わったのと同じ寒気を感じた。




mae ato
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