青色きょうだい(堀宮)


ウォークマンから流れる歌を口ずさみながら、学校で出された課題を進めるナオキ。

―――と、誰かがドアをノックした。

はあい、と返事すれば、双子の兄のマキオが制服姿で現れた。
どうやら、ついさっきまで補習だったみたいだ。

「ナオ、辞書」

口を開けば、端的にそう言って手を向ける。まったくと呟き、ナオキは苦笑を返した。

「…マキが持ってったままだけど」
「そーだったか?」

キョトンとするマキオにさらに苦笑が漏れる。
昨日貸したばかりだと言うのに、もう忘れたのか。

「わたしも使うから、早く」
「わあったよ」

ふと、ナオキの嗅覚が何かを感じた。その匂いの発信源は、目の前に居るマキオのようだ。

「…。マキさ、今日ご飯食べて来た?」
「何で分かった?」
「マキからハンバーガーの匂いがする」
「マック行って来たんだよ」
「ああ、それで」

そう言って、マキオはしばらく恥ずかしそうに視線を上げる。軽く頭を掻き、それから再び口を開いた。

「……宮村、と」
「! へえ」

そうか、それで恥ずかしそうなんだ。

宮村――宮村伊澄。ナオキと同じ高校に通う、隣のクラスの男子。中学生の時、マキオが苛めのような事をしていた男子だ。
今は和解したようで、今ではファストフード店に行く仲だそうな。

「にッ、にやにやすんな」

嬉しくてにやけていたみたいだ。ナオキははたと頬を押さえる。
マキオは恥ずかしそうで、焦ったみたいに大声になる。

「だって、マキが宮村くんと、」
「進藤も居るからな!」
「宮村くんとマックねー」
「うっせぇ!」

まるで恋する男子だ。

「わたしも、マック行きたいなー」
「…今度行くか?宮村と進藤も連れて」
「高校にもなって兄妹でマック行く?」
「別に、いいだろ」
「じゃあ行こうかな。宮村くん、ちゃんと誘いなよ」
「分かってるよ!」

ぐわっと叫び、マキオは足音を立てて出て行った。

部屋を出た後に、一つ年上の兄――ヨウジに見つかったのか、余計に苛々している声が聞こえる。
マキオはナオキには比較的甘い。というか、そこまで短気ではない。
その代わり、兄のヨウジにはかなり酷い扱いをする。
マキオにとって、ヨウジは嫌いではないのだが、中々鬱陶しい奴なのかもしれない。

さて、マキオと宮村、そして宮村の親友である進藤晃一とマックへ行く約束をしてしまった。

ナオキはわくわくしながら、折れたシャープペンシルの芯を指で弾いた。

「楽しみだなあ」
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