真面目な子(庭球)

「お疲れ様です、会長」

そう言って出迎えられるのは、いつものことだった。彼女に限って出会い頭に「お疲れ様」と言う。
そんな彼女は、将来優秀な秘書になれると確信できるような「出来た」副会長であった。

「先程榊先生がいらしていました。放課後部活に行く前に準備室へ寄れとのことです」
「分かった。いつも悪いな」
「いえ、副会長ですから」

そう言って、彼女はやんわりと笑った。滅多に謝罪や礼を述べることのない自分への返答は常に「副会長ですから」だ。責務であるというように、それを容易く断る。社交辞令もなんのそのだ。

「そういえば、夏休みに行われます男子テニス部強化合宿についての提出物をまだ受け取っていないとも仰っていました」
「ああ…、それか…」
「どうかしましたか?」
「いや、」

何でもないと言いかけて口を閉じる。何でもあるのだ。実際、とても困っている。
 その強化合宿というのは、男子テニス部部員全員参加のもので学校にて実施される。その名の通り、期間中は毎日基礎練習から試合まですべてを網羅する予定だ。
しかし、困ったことにサポートをする人間が必要となる。普段は一年生がマネージャーの役割を果たすのだが、合宿中は全員を鍛えていきたいのだ。サポートをするのも一環ではあるといえるかもしれないが、それでもやはりテニスをしてもらいたい。
ゆえに、臨時マネージャーというものが必要になる。他の部活に頼もうとも、実施日が重なるなどの問題から却下された。望まれるのは、帰宅部のみとなる。しかし、それも人選しなければならない。
方法を悩んでいたら、期限まで残り三日とまでになってしまっていた。早くしなくては。

「どうかしましたか?お悩みのご様子ですが」
「あ、ああ…、」
「今日の仕事はすべて終えていますので、宜しければお話をうかがいますよ」
「……悪いな」
「いえ、副会長ですから」

立ち上がり、ティーカップをふたつ持って彼女は微笑んだ。
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