∠ 視て、それから(青祓)
「お前のせいで」「あなたが余計なことをしたから」
「あいつは」「みんなは」「死んだんだ」「帰ってこない」
「アンタがいなければあの子は死ななかった」「きみがそんなことを言わなければ、彼女は」「どうしてここに来たんだ」
「もうお前なんか」「いらない」「消えてくれ」「お願いだ」
「死んでくれ」
彼の頬に一筋の涙が伝った。憤怒と憎悪で濁った暗い闇から零れ落ちた、とても透き通ってきれいな滴だった。
そのあとの胸の痛みと、赤色の滴と無色の滴。
私の滴は、なんて汚いんだろう。
そうして世界が、暗転した。
+++
目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。ああ、私は元の世界に戻ることができたのかな。
上体を起こすと、頭が少しだけ痛んだ。触ってみると布の感触。―――包帯、だ。
辺りを見渡して確認してみると、病室だということが認識された。
そこまではいいが、よく見てみると手のひらがどこか小さい。もしかして、若返ったのか。
ぞわりと背筋が凍る。まさか、そんな。まだ戻っていないの。
うそだ。また別の世界に来たなんて、ぜったい嫌だ。
怖い。またあの闇を味わうなんて嫌だ。怖い。恐ろしい。恐怖しかない。
がたがたと情けなく震え出す身体を抑えようとするが、そんなことは無意味であるかのように歯も鳴り出した。ああ、こわい。さむい。
「もう、いや、いやだよ…」
幾分幼くなった声に、余計に泣きたくなった。だめだ、泣いたらだめだ。
からり。そんななか、病室のドアが開けられた。
目を丸くしてそちらを見ると、―――ああ、見覚えのあるひとがこちらを見据えていた。
「よう、目が覚めたか」
そのひとは明るく手を上げた。この世界は、またそうして私を巻き込もうとする。
「俺のことは知らねェよな」
ごめんなさい。私はもう、関わりたくないの。
でも、抗えない。そんな勇気もない。
「俺は藤本獅朗だ。オンボロ教会の神父をしている。そして、」
少しだけ悲しそうに眉を下げた。
その次の言葉は訊きたくない。言わないで。
「薫、おまえの後見人になった」
ほら、やっぱり。
私の目の前には、絶望しかない。