シルノフ編 | ナノ


 暗い部屋に女はいた。あまりにも肌が白すぎるせいで女が動くたびに白い影が瞼に焼き付く。

「…ボス」

 ためらうようにかけられた声に女は顔を上げた、けれどすぐに何がおかしいのかクツクツと笑い始める。しかし声をかけた男はその女の異常性に慣れているのか、手に持っていた写真を女のもとへと投げた。

「これが現在のアレクサンドロ様です」

 女は笑うことをピタリと止めると写真に手を伸ばし、うっとりとした表情でそれを撫でる。そして急に嬉しそうな優しげな笑顔を浮かべ、男に顔を向けた。
 絡んだ視線に男は自分の背中に氷を押し付けられたような冷たさを感じる。

「ねえ」

 固まる男にはまったく気づいていないように女は何でもないように言葉をかける。

「それで?」

 その声はいっそ優しげでもあったけれど、声音は一定まるで温度というものがない。
 男はごくりと喉を鳴らすと、今度はもう一枚の写真を投げる。けれど軽く宙を舞った写真は、ピッという空気が切れる音とともに女の手の中にあった。

「誰」

「アレクサンドロ様の属するファミリーのボスの愛妾の娘です」

 女はじっとその写真を見た。二十歳前だろうか、まだ幼さを残した顔立ちの可愛らしい少女。ブルネットの髪とエメラルドの大きな目が印象的だった。

「どうでもいいな、この子」

 無表情でつぶやく。しかし男はその言葉を無視して「では失礼します」と断りを入れてから部屋から出て行った。
 女はそれを気にするでもなく手に持っていた二枚の写真を破った。

「…欲しい」

 女はそれ以上喋らなかった。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -