クルィロフ家編 | ナノ



 モニカは話す。

「貴方は私が持たずに産まれた異能を持っているの。その徽(しるし)に気付いてたかしら…?下腹部に痣のような薔薇の紋があるでしょう。これはクルィロフ家の異能を持つ者だけに現れる徽よ。よって、クルィロフ家に於いて薔薇を身につけられるのは異能がある者のみ」

 そこまで話すと、モニカはエミールの服を軽く持ち上げ、下腹部が見えるようにした。

「異能の覚醒には当主から言霊を貰わなければならない。だからエミール、絶対にその言霊を聞いては駄目よ。言霊を紡ぐ際には、瞳の色がクルィロフ家特有のオッドアイから黄金(きん)に変わるから、もしもの時は耳を塞いでなさい」

 モニカはエミールの徽に指で軽く触れる。

「…それだけ話したかったの。さて、と」

 ちらりと扉の向こうに目を向けるモニカにエミールはきょとんとした。

「母様?」

「エミールのこと、守ってやってね二人とも」

 そう言ってにっこりと扉に話し掛けるモニカに観念したのか、扉の向こうからキルシュとウォッカが現れた。

「さすがモニカ様。現役なのも伊達ではないと」

「当たり前だわ?でなきゃ、ボスの直属は勤まらないわ」 

 キルシュにとってエミールは異母妹なので気にかけるのは自然だが、このウォッカという男は周囲から言わせれば「何故エミールを気にかけるのか不明」なのである。
 出会いで云えばエミールが例の幼なじみ達と出会った時期とさほど変わりはない。
 モニカはキルシュの他にも娘を気にかけてくれるこのウォッカという人物との出会いを思い出していた。








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