クルィロフ家編 | ナノ
「何から話しましょうか」
モニカはベッドにいるエミールの横に肩を並べるようにして座る。
「そうね…。まず貴方の血について話しましょう。エミール、貴方はクルシェフスキー家の他にクルィロフ家の血もひいているの。私が先代のクルィロフ家当主の娘だから」
母の言葉にエミールは目を見開いた。
「で、でもクルィロフ家はオッドアイじゃない。母様の瞳は黒だわ」
エミールのその言葉にモニカは顔を俯かせると、目からカラーコンタクトを外した。
顔を上げたモニカはまごうことなきオッドアイで、エミールは言葉を失う。
「母との記憶はあまりないの。十になる前にはもうミハイルに仕えていたから。クルィロフ家の異能については聞いていると思うけど、゛降霊術゛を持つ一族よ。私は誰よりクルィロフ家直系の血を継ぐ娘だったけど、異能は覚醒しなかった。もとより、これっぽっちも力なんて存在しなかったの。一族の権勢拡大を期待され産まれたのに、全然役に立たなかったわ。でも、その代わりに身体能力は飛び抜けていたから、オーデル様は私に居場所を与えてくれたの」
クルィロフ家にはモニカはオーデルの気まぐれで奪ったように伝わっているが、本当は違う。モニカをこれ以上傷付けない為にオーデルが取り計らったのだった。
非情と知られ、クルシェフスキーの悪魔と呼ばれたオーデルが何故娘一人の為にそこまでしたかと言われれば、それはオーデルお得意の『気まぐれ』であり、天性の勘のようなものが働いたのかもしれない。
それに何より、当時3つにもならないミハイルがモニカがまだクルィロフ家の娘だった頃、挨拶に訪れたモニカをえらく気に入り、それを見たオーデルに何か思う所があったそうだ。
そこまで説明し、モニカは口をつぐみエミールをじっと見つめる。
「本題はここからよ」
モニカがそう言うとエミールはモニカの手を握った。
娘の不安げな表情にモニカは「聞いて、エミール」と優しく微笑む。
「貴方は必ず母様が守ってあげる」
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