クルィロフ家編 | ナノ


「此処に置いて下さい、オーデル様」

 クルィロフ家を飛び出した娘は当時のクルシェフスキーファミリー・ボスであるオーデル・クルシェフスキーを訪ねていた。

「どうしたの?ほら、座って」

 突然の訪問にも関わらず嫌な顔一つせずオーデルは娘を労った。

「………私の、本当の父様は……」

 娘がそこまで言うと、全てを悟ったオーデルは娘を抱きしめた。

「! ごめんね、もう言わなくて良いわ」

「オーデル様、知って―…?」

 娘はくしゃくしゃに顔を歪ませ涙を流し始めた。

「オデットから聞いていたわ」

 オデット。娘は母の名を聞くと涙と共に鳴咽し始めた。

「……わ、私の血は、呪われているのでしょうか…?」

「馬鹿なことを」

 娘の言葉を受けオーデルは眉根を寄せた。

「で、でも、」

 娘の顔色はすでに蒼白で、オーデルはしゃくりの収まらない娘の背中を撫でた。
 オーデルは血縁であるこの不遇の娘を気に入っていた。
 娘の母とは意見の相違から対立してばかりだが、娘は若いながらも聡明で、年の割に落ち着いていた。尚且つ、オーデルが気まぐれで体術の手ほどきをすれば恐ろしく飲み込みが良かった。それはもう、自身の元で色々と叩き込みたいほどに。

「私はあなたが好きだわ。血は関係なく。その血があなたを苦しめてるなら、私の所に来なさい。そうね、あなたには別の名―……新しい名前と主をあげる」

 しばらく思案した後、オーデルは娘に向かって言った。

「私の子、ミハイルに仕えなさい。名前はそうねぇ、モニカなんてどう?」

「モ、ニカ…」







 その日から娘は『モニカ』となった。








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