クルィロフ家編 | ナノ


 今から数十年と少し遡った先代のクルィロフ家で事件は起こった。
 その年は例年と比べものにならないくらいの豪雪に見舞われた。
 クルィロフ家では一人の女性が腹に子を宿し、一族の者達から父親のいない腹の子は産まぬ方が良いと毎日のように繰り返し言われていた。
 クルィロフ家の当主である女性が父なし子を産む。一族中がそれを非難したが、女性は頑なにそれらを無視し子を産んだ。
 産まれた子の産声はそれは強く生気に満ちていた。
 だが、産まれた娘は母である女性に愛情を注がれた記憶がない。
 娘を産んだことを償うかのように当主の仕事に没頭し、娘は母の温もりを知らず成長した。
 娘に物心がつき、屋敷の人間達の自身に向けられる哀れみや蔑みを含む視線の意味を解すことが出来るようになってきた頃、それは突然に娘の身に衝撃を走らせた。
 中年の使用人が二人人目を憚って何やら話している傍を通り掛かった娘は、何の気無しに会話の内容が耳に入ってきた。

「ご当主のお相手、実の兄君だったとか」
「じゃあ、お嬢様の父親は…」
「血を守る為、近親婚を繰り返してるってのにねぇ…」
「妹に子を産ませることでより強い異能の子が産まれるかもしれないでしょう?」
「じゃあ、強い異能はクルィロフ家の権勢の為ってこと…」
「初代様の長時間降霊を成功させることしか考えてないんでしょう」
「そこまでいくと穢らわしいわ…」

 その会話を聞いてしまった娘は足が震え、その場にしゃがみ込んだ。



 娘がクルィロフ家を飛び出したのはそれからすぐのことだった。








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -