クルィロフ家編 | ナノ
産まれた時から一緒にいるスェウとスノウにとって、片割れは自身の半身に近い。
同じ容姿をし、ほぼ同じ思考をする。
スェウとスノウは、クルィロフ家当主としての教育を徹底された環境の中で施されてきた。
生まれて初めて父親の降霊術を目の当たりにした時から、双子は一族を率いる重責を感じ始めた。
クルィロフ家には、クルシェフスキーファミリーの血塗られた歴史をファミリーの終焉―…つまり初代からの復讐を果たすその日まで延々と記録し語り継ぐ役目が課せられている。
普段はクルシェフスキーファミリーには人間の姿形を持つクルィロフ家の機械人形らがそれらを記録しており、クルィロフ家に送られてくるデータを元にクルシェフスキーファミリーの歴史を記録していた。
クルィロフ家の当主は、それを元にして時期を選び故人である初代ボスを降霊していた。
初代の降霊時にはクルシェフスキーファミリーボスや幹部らを召集し、復讐を果たす意味を説く初代の話を聞かせた。
だが、降霊術には時間が限りがある。
異能の強い者こそ降霊時間は延びるが、長時間とは言えなかった。
初代の言葉を真に受け止めるには時間が短過ぎたのだ。
初代を降霊させ、その言葉に縋ってきたクルィロフ家には、復讐こそクルシェフスキーファミリーの全てと説く初代を神の啓示であると言わんばかりに崇め、依存してきた。
だが、それに反してクルシェフスキーファミリーは代が下るごとに初代の意向に利害を見出だせず、度々クルィロフ家と衝突してきた。
そして、先々代ボスの復讐など無意味だという教えを受け継いだ一人娘のオーデル(先代ボス)は、クルィロフ家に歴史の記録こそ許したものの、初代の降霊会には一度たりとも姿を現さなかった。
そこでクルィロフ家の権勢の陰りを憂いた当時のクルィロフ家当主の兄は躍起になり、当主にして実妹であるオデット・クルィロフに子を孕ませた。
そうして産まれた娘―…後のモニカには異能が皆無だった。
だが、さらにその娘のエミールは異能を持ち誕生した。
未だ覚醒しないそれは、同朋を゙喚ぶ゙ほどに強大であった。
それに一族再起のために目をつけたのがクルィロフ家現当主・スェウとスノウだった。
愛娘の異能が覚醒すれば、ボスであるミハイルもクルィロフ家を今まで通り放置出来はしない。
初代の意向のためにも、クルシェフスキーファミリーには動いてもらわなければならないのだ。
そう考えた二人は、エミールの異能を覚醒させるべくクルシェフスキーファミリーを訪れ、現在に至る。
だが、異能の覚醒のためにはどちらかの命を対価に差し出さねばならない。
けれど、それが自分たちの定めだと思えば何のことはないと二人は考えていた。
一族を背負う当主ならば命すら初代に差し出そう―……。
一族の命運を齢9つを迎えたばかりの幼子が背負うには、あまりに世界は残酷だった。
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