クルィロフ家編 | ナノ


 勉強しなさい、とは誰も言わない。
 むしろ「たくさん遊んで、たくさん食べて、たくさん寝て」と言われる。
 言われないからしない子にはなりたくなかったから、時間があれば書庫にいた。
 母様はお仕事で滅多に会えなかったけど、自分の我が儘でお仕事にならないなんてことになったら、自分で自分が許せないから寂しいとはあまり思わないことにしていた。本当は、少し、寂しいのだけれど。
 そのかわり、父様は同じお屋敷で暮らしているから、朝夕の食事はいつも一緒に摂っていた。
 父様には本妻であるニキータ様がいらして、異母兄のキルシュもいたから、食事時にその3人の中に混じる私は何だか自分が不自然な存在なように思えてならなかった。
 けど、ニキータ様はそんな私にもとてもお優しい。
 娘が欲しかったの!と着せ替え人形のように私を着せ替えては使用人達に「可愛いでしょう!」と言って下さっていたし、時折キルシュと私を外に連れて行って下さった。
 キルシュも私がお屋敷で迷子になれば必ず探しに来てくれたし、雷が怖くて堪らない夜には手を握って一緒に寝てくれた。
 



 ――私には贅沢過ぎる環境や人々の中で、全てを甘受することなど到底出来ず、私は溺れそうになっていた――



 ウォッカと再会するあの日までは。








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