番外編 | ナノ


 ウォッカは手回しの達人にして生きるびっくり箱のようだと思う。
 何年か前にいきなりエミールが「七夕をしよう」などと言い出したとき、笹なるものがいるらしく俺は冷静に「んなもんあるわけねーじゃん」と言ったらそれはそれは真っ赤な顔をしたエミールと喧嘩になった。しかしひょっこり現れたウォッカが手に笹を持って登場したものだから全員が呆気に取られ、同時に自分達が毎日雪に閉ざされた城にいるということを忘れた。
 どう考えてもロシアにあるはずがない。

 あるときキルシュがリキュールにボスのボスとしての素晴らしさを語っていたのを見てウォッカは小さく「一定の時期まで成長日記をつけてたなんて知ったらどんな顔するかなぁ…」と呟いたのを覚えている。
 エミールはともかくとしてキルシュにも親バカだったらしいボスがまあ、それらの日記をつけていたとしても正直違和感はないが…ボスとしては「どうなんだそりゃ」だ。ウォッカの楽しそうな笑顔が本気で楽しそうだから、あとで何かに使うんだろうなそのネタ、と思うとキルシュとボスが途端に哀れになった、ご愁傷様。

 本日、現在、そんなびっくり箱人間は片手にビール缶を持ち、片手に色鮮やかな大きな布に包まれた大きな四角形の箱をぶら下げてあるいていた。
「ちょいちょい、ウォッカさん」
「ん?」
「それなんだよ」
 かなり重そうなそれの大きさは30センチより少し大きいくらいだろうか、ちょうど成人男性の首が入るくらいだ。まさか…。
「生く…」
「び、なわけないだろうがバカタレ」
 即座にツッコまれ口を閉じる。さすがにそれはないようだ。
「じゃあ何だよソレ」
「おせち」
「…はい?」
 なんだそりゃあ。
「日本の年明けに食べる贅沢な一品」
「…あんたが説明するの面倒臭がっているのだけはわかった」
「それだけわかれば十分さ」
「あ、そ…」
 会話を終わらすとウォッカは上機嫌に去っていった。後にわかることだがエミールがぽつりと「おせちが食べたい」と漏らしたらしい。それをどこから聞いたのか、また入手してきたかはまったくの謎である。




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