番外編 | ナノ


 ウォッカとはいえども現状に呆れることもある。
 例えばクルシェフスキーファミリーに来たばかりの頃、ククールが足を滑らせて盛大にこけたあげく雪に頭をつっこんだこと。あれは呆れた。
 もう一つはトゥルが仕事帰りに幽霊を見たと騒いで返り血を落とさずに自分の執務室に走ってきたこと。呆れるというより情けなくなった。
「久しぶりだな」
 そこには自分が貯蔵していた酒の一つのコルクを開け堂々と寝酒以上のアルコールを摂取している父がいた。
「…仕事に戻れ酔っ払い」
 まさか普段自分が言われているセリフを実の父親に言う日が来るとは思わなかった。
「酒ひとつで機嫌悪くしないでくれよ」
「そこに結び付けるのはやめてくれ」
「知ってる」
 父親、ヴィタは小さく苦笑を漏らしながらグラスを煽った。どうやら1940年産の赤ワインはお気に召したらしい。
「で?まさかただ酒を飲みにきたわけじゃないんだろ?」
「まあな、とりあえず釘を刺しにきた」
 何のことだと思いヴィタを見ると、思いの外真剣な表情で自分を見つけていた視線とかちあった。
「あいつが、最近動いてる」
 あいつ、と直接名詞を言わないのは心の恐怖の現れか。ウォッカはヴィタから視線を外して自分のグラスを持つ。
「一応ミハイルにお前を関わらせないようにだけ言っておいた、ただどこまでしてくれるかはわからない」
 あの女はお前を求めているくせにお前が直接関わると暴走する、とついでのように呟いた。手を付けられないほどに変なことをされるくらいならと関わらずにいたがどうやら今回もそうらしい。
「父さんが気にすることじゃないさ、それよりも米国の組織と会談があるんじゃないのか?」
 言外にさっさと行けと言うとヴィタは苦笑してグラスを机の上に置いた。そのまま立ち上がり廊下に出ようとする。「あと」とウォッカが続けるとヴィタは立ち止まり息子へと向き直る。言いたいことがわからないのか不思議そうな顔をするヴィタにウォッカは苦笑した。
「ここでボスを呼び捨てにするのは止めとけ」
 言われてヴィタは「あ」と呟き、次の瞬間には恥ずかしそうに「黙っておいてくれ」と言った。
 ウォッカとて呆れることくらいある。
 けれど父親に会うたびに自分は呆れてばかりだ。




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