彼が何だかお洒落な喫茶店に入って行ったから、自分も後に続いた。店員が「二名様ですか?」と聞いた時に彼がぶっきらぼうに、しかしはっきりと「あぁ」と答えてくれたのが嬉しかった。案内されるままに席につくと彼と向かい合う形になって。それが何となく気恥ずかしくてもぞもぞと動いていたら彼が店員を呼んだ。
「コーヒー。ホットで」
「二つですか?」
「いや、一つ」
「お連れ様は」
「…ホットココアを、一つ」
「かしこまりました」
少々お待ちください、と言って店員は下がっていった。彼と二人きり、無言の空間が広がる。自分は、膝の上で握りしめた手を見つめていた。
彼は自分を厄介払いしたいのではないだろうか。勝手にしろと言った彼のその言葉に甘え勝手に付いて回っているがそれは彼にとって迷惑ではないだろうか。いやきっと迷惑だろう。けれど何も言われない、何もされない。それに安心もするし、恐怖もする。孤独は、嫌いだ。
「お待たせいたしました」
「…ありがとう、ございます」
コーヒーとココアが目の前に置かれる。待ってましたとばかりに手を伸ばした彼に倣い、自分もココアに手を伸ばし、飲んでみた。…温かい。そして、甘い。
「美味いか?」
「…はい」
「そうか」
向かいに座る彼はにやりと笑った。その顔に高鳴った胸を飲み込んだ温かい液体で隠し、じんわりと心に広がるこの気持ちをゆっくりゆっくり噛み締めた。

甘すぎたのは
ココアのほう


あぁなんて、なんて糖度の低い幸せだろう。喉の奥に張り付いた胸焼けがしそうなほどの甘さが、とても煩わしかった。


title by 揺らぎ

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