上司から休めと言われる度に、ヒーローにも休日なんてものがあるのかと今初めて気付いたように感じるのはこれで何度目だろう。期せずして暇になってしまった彼はとりあえず会社に背を向けぶらぶらと歩き出した。休日、休日。この前の休日は愛犬との散歩を楽しんだから今日もまた同じようにして過ごそうか、どうしようか。そう考えていた彼は何気なく空を見上げた。自分のヒーロー名にも使われている広い空。彼は立ち止まってみた。しかし雲は彼のように止まらずゆっくりと空を滑る。動かずにいるとじわりと汗が滲んできた。今日は暑かった。
彼は再び歩き出そうとしたがふと気になって隣を見た。隣には誰も居ない、街路樹があるだけだ。そして、彼が首を傾げた時だ。がさりと目の前の木が音を立てた。
「あれ、スカイハイ…じゃなかった。キースさん」
「やあ、ホァン君か。こんにちは、そしてこんにちは」
ひょこり、と。木の葉の間から逆さまに頭を出したのは彼の仲間でありまたライバルでもある少女だった。木から身軽に飛び降りた彼女が「何してるの」と尋ねる。彼は拍手を送りながら「何をしようかと考えていたところだよ」と答えた。
「休日をもらったのだが、生憎やる事が無くてね」
「なら、ボクと同じだ」
「ホァン君も?」
彼女はにこりと微笑んで歩き出した。彼も小さな歩幅で後に続く。「ボクもお休みをもらったんだ」と彼女は言った。
「でも、何もやる事が思いつかなくて」
「ではなぜ、木の上に居たんだい?」
「暑かったからだよ」
「暑かったから?」
「うん。雲が気持ち良さそうに風に吹かれてたから、高いところに行ったんだ。今日は暑いし、風を感じたかったから」
そして彼女は歩きながら彼を振り返った。その視線は悪戯を思いついた子供のようでもあるし、何かを期待する子供のようでもある。つまりどちらにせよ彼女は子供の瞳をしている訳だが、彼はそれに気付いているのか気付いていないのか窺い難い笑顔を浮かべ頷いた。

天つ風は頬を撫でず

「成る程。では私が代わりに君を涼ませる風になろう」
彼の言葉はどうやら望んでいたものであったらしい。彼女は一層笑みを深めた。
「休日の予定が決まったね、キースさん」


title by 嘯く若葉

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