「サインくださいっ」
背後からかけられたその言葉は本日何回目かなんて数えるのも馬鹿らしい。素顔と本名を公開するのは僕の目的を成し遂げる為ではあるけれど、流石に外を出歩く度に他人に囲まれるのは偶に、そう偶にうんざりする時もある。けれど外面が良い事に定評のある僕はそんな内面をおくびにも出さず「はい、良いですよ」と言いながら振り返った。そして軽く驚いた。僕の背後にに居たのは、見覚えのあるサイドテールの女の子。確か、スケート場で助けた子だ。
「あ、ありがとうございます!」
差し出された罫線ノートとサインペンを受け取り、僕は人好きする笑みを浮かべる。本当はちゃんと色紙とか用意しないと失礼かもしれませんけど、でも今色紙持って無いんです、バーナビーさんを見たらそんな事頭から飛んでっちゃって、ごめんなさい、ありがとうございます。女の子の言葉は一応僕の右耳から入っては来るけどすぐに左耳から外へ出て行く。つまり僕は聞いていない。書き終えたサインには何かが足りなかった。「名前は?」僕は尋ねた。彼女は少しきょとんとした後僕の意図に気付いたようで、慌てて口を開く。
「えっと、楓です。鏑木楓」
カブラギ?今度は僕が慌てる番だ(勿論、心の中で)。それは確か、認めたくないが僕のパートナーという事になっているあのおじさんのファミリーネームだった筈だ。と言う事は、目の前の少女は彼の身内?僕はおじさんの左手の薬指にある輝きを思い出す。いやいや、妻ではないだろう、年齢的に。ならば妹か…娘?
「カブラギカエデさん………はい、どうぞ」
「わぁ…!ありがとうございます!」
何も気にしてなどいないと言った体で笑った自分の事を、僕は全力で褒めてやりたい。

最初はきっと
こんな感じ

翌朝おじさんに娘がお前のサインを貰ったと自慢してきたんだけどお前どこで楓に会ったんだと質問された。彼女は貴方に似ず可愛いですねと僕は言った。

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