××な女の子 | ナノ

「ねえ、何の本読んでるの?」
 目の前から聞こえてきた声に、思わず顔を上げる。そこにはクラスメイトの日向くんがいた。

 昼休みの教室は少しうるさく感じる。わたしはそんな空気が嫌い……というわけではないのだけれど、苦手だった。昔から人と接するのが得意ではないわたしは、休み時間も大抵は一人で読書して過ごしている。各々が友達と楽しげに喋っている様子をちらりと見ては、羨ましいなあと思ったり。ぜんぶ社交性が皆無であるわたし自身が悪いのだということは分かっているものの、やはりいろいろ思うことはあった。

 今日もそんな昼休みを過ごすつもりだった。だから黙々と読書していたわたしにいきなり向けられた日向くんの声にびっくりしたのは仕方ない。一方で、声をかけた本人である日向くんは、きょとんとした顔でわたしを見ていた。
 日向くんはわたしとは違ってわりと社交的で、どんな人ともすぐに仲良くなれそうな印象がある。いわゆるコミュニケーション能力が高いのだ。そんな彼は多分わたしに話しかけた理由なんてないのだろう。ただ、なんとなく。いかにもそんな答えが返ってきそうだ。

 とりあえず、日向くんの質問に答えなければ。わたしは視線を彷徨わせながらも口を開く。

「……推理小説」
「すいりしょうせつ?」
「う、うん。これ……ドラマ化されたものの原作なんだ」
「へえ! なんかすげぇ!」

 よかった。わたしにしてはまともに話せている。日向くんのコミュニケーション能力に感化されてしまったのだろうか、などと思っていると、日向くんが話を続けた。

「おれ、本読んでるといっつも途中で寝ちゃうんだよなー」
「……日向くん、本読むの? あんまりイメージないんだけど……」
「ほら、読書感想文とか書くときは、どうしても読まなくちゃいけないでしょ?」
「あ、そっか。……わたしも途中で寝ちゃうことあるよ。特にこういう推理小説とか読んでると、犯人とか犯行のトリックとか考えているうちに、いつの間にか寝ちゃってたり」
「えっ、トリックとかも考えんの!?」
「えっと……まあ、たまにね」

 すげー! と目を輝かせる日向くんはとても純粋だ。そんな彼を見ていると微笑ましくなってくる。わたしも幼い頃はこんなに純粋だったのだろうか。
 そう思うと同時に日向くんがかわいらしくも見えてくる。母性がくすぐられているというか、なんというか……。ころころと変わる表情が、ちょっと子供っぽいような、あどけないような。最後に男子と会話らしい会話をしたのがいつだったか思い出せないが、そのときはこんな気持ちは湧いてこなかったと思う。

「……また、面白い本があったら教えようか?」

 さっきから言おうか言うまいか迷っていた言葉をとうとう声に出した。どうしようもないくらいの緊張感が震える声となってあらわれていた。えっ、と驚いたような表情になる日向くん。ああ、さすがにお節介だっただろうか……。
 やっぱりなんでもない。そう言おうとしたけれど、すぐに口を閉じた。日向くんが嬉しそうに笑っている。今度はわたしが驚いた。

「みょうじさんにそう言われて嬉しい。ありがと!」

 一寸の曇りもない太陽みたいな眩しい笑顔に、わたしも自然と口元が綻んだ。
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