××な女の子 | ナノ

生まれてから16年、生まれて初めて彼女ができた。小さくて可愛らしい、恥ずかしがりやな女の子。俺の彼女はそういう子だった。


「あの、山口くんが好きです」

これ以上はないんじゃないかってくらい真っ赤な顔。くりくりした真っ黒な瞳に少しだけ涙をためて、小さな唇から出た言葉に思考が停止した。

「えっと、あの、間違いじゃない、かな?俺はつっきーじゃないよ」

咄嗟にそんな言葉が出た俺に、とても傷ついたような顔をして「わたしは月島くんじゃなくて、山口くんが好きなの」とさっきより少し強めな声を出したみょうじさんにしまった、と思った。
この、隣の席に座っているみょうじさんはあんまり目立つような少女じゃなく、どちらかと言えばおとなしくて物静かな子だった。一応挨拶はかわすけど、人見知りなのかあんまり目も合わないしそれ以上の会話はしたことがない。そんなみょうじさんを意識しだしたのはある授業の小テストのとき。筆箱の中をごそごそと探して慌てている様子を見て、余計なことかな、とも思ったけど困っている彼女を見て見ぬふりもできずに自分の消しゴムを半分差し出した。どうぞ、と差し出した消しゴムをびっくりしたように見つめるみょうじさん。あ、目が合った、と少し場違いなことを思っていたら、頬をほんのりと染めたみょうじさんが、花がほころぶように笑って、ありがとう、と小さな小さな声で呟いた。
恋に落ちるのなんて本当に簡単で、ありがとうと花のように笑った姿に心臓を射抜かれた。以来、俺は彼女に恋する男だった。だけど、俺はつっきーみたいにかっこよくないし、告白する勇気なんて到底ないからきっと片思いで終わるんだろうなぁって諦めに似た感情を持っていた。だから、彼女から告白されたのは予想外すぎたんだ。

「あの、ごめん。さっきの言葉はダメだった」
「・・・うん」
「それで、あの、俺もみょうじさんが好き、です。こんな俺でよければ付き合ってください」

そう言った俺に、彼女はとても嬉しそうに笑った。

***

付き合い始めて、みょうじさんはすごく恥ずかしがりやな子だと知った。人見知りもあるらしいけど、とにかく人といるのは緊張するし恥ずかしいのだと。だから、一緒に帰っても手をつなぐことはおろか、会話もほとんどなかった。これって付き合っている意味はあるんだろうか。でも、自分から無理に手をつなぐのもどうかと思ったし、会話だって得手不得手があるし・・・と自分を納得させた。でも本当にこんなんでいいのか、自分でいいのか不安で、それとなくつっきーに相談したら。

「君ら中学生なの?というか今時、小学生でももう少し進んだ付き合いしてるでしょ」

つっきーの言葉はぐさり、と俺の胸に刺さった。そうだよね、こんなこと相談してごめん、つっきー。そう言って笑った俺にため息を吐いて、まぁ人それぞれだろうから自分らのペースでいけば、とフォローしてくれた言葉が逆に痛かった。

***

大事に大事にしたかった。かわいらしい彼女を傷つけぬよう、真綿でくるむように優しく接したかった。けど、結局は彼女の手すら握れないヘタレな俺の言い訳なのかもしれない。

一緒に帰っていても相変わらず会話はなく、息苦しいようなでも離れたくないような、不思議な空気が周りを包む。彼女は本当にこんなので楽しいのだろうか。付き合ったことを後悔してはいないだろうか。不安になりつつチラリ、と横を見るとちょうど顔を上げたみょうじさんと目が合う。ほわり、とはにかみながら笑った彼女を見て、

かわいい、抱きしめたい。

その本心がポロっと口から溢れ出た。え、と小さく声を漏らしてみるみる真っ赤になった彼女を見て、自分の失言を悟る。あの、その抱きしめたいっていうのはその、本当なんだけど決してやましい意味とかじゃなくて、あの、だから・・・その、ごめん!あわあわと言い訳のようなよくわからない言葉をつむいで、結局謝ることしかできなくてうつむく。じいっとみょうじさんの視線を感じて、後悔と不安で押しつぶされそうになったとき。山口くん。と名前を呼ばれてそろそろと顔をあげると、頬をりんごのように真っ赤に染めみょうじさんが、どうぞ、と小さな声で手を差し出していた。その仕草の可愛さに胸が一つ高鳴る。

「あの、ほんとにいいの?」
「うん。山口くんならいい」

抱きしめてください、と小さな声で言われ、顔がぶわっと熱くなる。緊張しながら恐る恐る抱きしめると、その体は驚く程小さくて柔らかい。少し力を入れたら折れてしまいそうな華奢さと、鼻をくすぐる優しい匂いに、ますます緊張する。俺のぎこちない抱擁にしばらく身を預けていたみょうじさんがもぞっと動いたので少しだけ体を離すと、ぱちりと目が合う。

「あのね、山口くんに抱きしめてもらうの、恥ずかしいけど・・・すごく安心するね」

真っ赤な顔で嬉しそうに笑った彼女を見て、なんだか幸せすぎて泣きそうだと思った。
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