企画 | ナノ

「リタっち。またごはん食べてないんでない?」
「ん? そうかもねえ」
「そうかもねえ、じゃないっての。なんで食べないのかね、この子は! それ以上薄っぺらくなってどうすんの。ったく」
「薄い……?」
「……あー、おっさん間違えちゃったかも」
「問答無用!」

 あぐらを掻いて座っていたリタが勢いよくこちらに手を突き出す。そこから飛び出した火球の直撃に後ろに倒れ込んだレイヴンは、倒れ込んだときに崩した本の山が自身に襲いかかってくる様子をぼんやりと眺める。重い音が響いて、体が本の海に沈んだ。強烈な痛みにレイヴンは、仕事の疲れも相まって、目を閉じてしまった。
 
リタとのお付き合いは正直に言うと、お守りをすることの方が多い。
 甘い恋人の時間なんて、ほんの僅かだ。まず、食事の世話から焼いてやらなければ、リタはその辺にあるパンやら果物やら原材料で食べられるものしか食べず、非常に人間としてはアレな生活しか送らなくなる。
 掃除だって、毎日しなければ家は本の塔で埋め尽くされることは間違いないだろう。リタ自身は本の雪崩に遭おうが、平気で読書を続けるのだから、怖い。
 リタがきちんとした生活を送れるように、とこちらが考えて行っている世話も先ほどのようにちょっとでも地雷に触れれば、礼など言ってもらえず、代わりにもらうのは火の球だ。
 周囲に話せばひどい話だと言われること間違いなしの恋人生活なわけだが、レイヴンが不幸かといえば、そうではなかった。
 仕事から帰ってくるとリタは必ず、こちらを向いて「おかえり」と声をかけてくれる。その一言にどれだけ癒されたかわからない。
 日常生活の中でリタは幸せをレイヴンにくれるのだ。たまに見せる笑顔も、時折背中合わせに座るときにくれる体温も、全てがレイヴンを暖かい気持ちにさせてくれる。
 悪いことばかりじゃない。片づけをしないのも料理をしないのも、レイヴンへの甘えだと思えば、全て許せてしまうのだ。

「ん……?」

 腹にかかる重みに目を開ける。
 気絶というわけではなかったが、眠ってしまっていたレイヴンの腹にリタが乗っていた。
 すやすやと眠るリタにレイヴンはふっとほほえむ。

「ま、大変だけどおっさんは幸せよ、リタっち」

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