企画 | ナノ

 ぼくの素敵なご主人様達のお話を聞いて。
 ぼくのご主人は二人いて、ひとりはどうやら偉い立場の人間らしい。ぼくは、おっさんって呼んでる。いつも飄々としているけど、散歩中に街で見かけたときは大勢の人になにか指示を出していた。いっつもおうちでは、へらへらしていて、このご主人は頼りがいはないけど上手に甘えさせてくれるヤキモチ妬きさんだなと思っていたのだけど、どうやらそれはおうちの中だけの姿みたい。外でもふわふわした雰囲気はあるんだけど、やっぱり偉い人間っぽくて、おうちにいる時よりもなんとなくかっこよく見える。
 もう一人のご主人は、ぼくを拾ってくれた優しい女の子。おっさんがリタっちって呼んでいたのが羨ましかったからぼくもリタっちって呼んでるかわいい女の子で、ぼくはリタっちのことが大好きなんだけど、リタっちはおっさんが大好きみたいなんだ。
 おっさんの前では、おっさんがからかえば魔術で撃退するし、ちゅうしようとすればおっさんの胸を押して距離をとったりするんだけど、ぼくとふたりっきりの時に教えてくれたんだ。「おっさんはばかでアホですぐ無茶するむかつく奴だけど、いいところもあるのよ。優しいし、いっつも何よりもあたしの幸せを考えてくれてるのがわかる。だから、いじめちゃだめよ」って。
 ぼくは、リタっちからそのお話を聞くまで、おっさんが嫌いだったんだ。
 雨の中で濡れて寒いよって震えてたぼくを拾ってくれた優しいリタっちをおっさんは「ぺたんこ」だとか言っていじめるんだもの。リタっちも反撃していたけど、ぼくも引っ掻いたりしておっさんと戦ってたんだ! それにリタっちがおっさんを好きなのもいやだったんだ。ぼくはリタっちが好きなのに、リタっちはぼくじゃなくおっさんが好きなんだもの。それってとっても悲しいことじゃない? だから余計に嫌いだったの。
 でも、リタっちがいじめちゃだめって言うから引っ掻くのはやめたの。
 嫌われてるからってぼくを抱っこしなかったおっさんの膝の上に勇気を出して飛び乗ったんだ。今までいじわるしてきたから、もしかしたら嫌がられるかもしれないなっておっさんの顔を見たら、おっさんはにこにこしてた。
 なんで笑ってるんだろうって思ってたら、おっさんはぼくをよしよしして、とっても優しい顔をしたの。「こっちの子猫もおっさんのこと好きになってくれたかな」って。
 ぼくはおっさんが嫌いだったんだよ? 街で見かけたときもリタっちじゃない女の子とよくお話してるし、リタっちはおっさんのことが大好きなのに。でもね、そのときぼくはおっさんのことも好きになっちゃったんだ。
 だって、おっさんはとってもリタっちのことが大好きなんだってぼく、本当は知ってたんだ。街で女の子と話してるときもいっつもリタっちのお話をしてた。リタっちのお話をするときのおっさんの目はとっても優しかった。
 それでね、ぼくのことを見てにこにこしてたおっさんの目もとっても優しかったの。おっさんはいじわるしたのに、ぼくのことよしよししてくれるんだって思ったら、なんだか嫌いじゃなくなっちゃったの。不思議だよね。
 リタっちもおっさんもぼくにとっても優しくしてくれるけど、ヤキモチ妬きさんなんだ。
 特におっさんはひどくてリタっちの膝にぼくが乗ってたら必ずやってきて、ぼくを自分の膝に乗せるの。「リタっちばっかり、こいつと遊んでずるくない? おっさん、昼間はかまえないんだから、今くらい構わせてよ」ってぼくを片手で撫でながら言うんだけど、いっつももうかたっぽの手でリタっちの手を握るの。
 本当はリタっちじゃなくて、ぼくにヤキモチ妬いてたくせに。この間ふたりきりのときに言ってたじゃないか。「お前さん、リタっちと仲良すぎよ」って。ぼくのほっぺをうりうりしながら。あのときのことまだちょっと怒ってるんだからな!
 リタっちも本当はヤキモチ妬きさんで、おっさんもそれに気づいてる。ぼくにばっかり構ってわざとリタっちに構わないときがあるんだ。リタっちは、それがいやだからおっさんに構うでしょう? おっさんは楽しそうに笑っていっつも口だけ動かしてぼくにお礼を言うんだ。
 ぼくはリタっちが好きなのに、おっさんに協力する日常を送ってるの。でもね、それでリタっちがにこにこできるならぼくもしあわせなんだ。おっさんがにこにこしてるのもとっても嬉しい!
 だから、ぼくはこのおうちに拾われてとっても幸せなの。
 ね? 素敵なご主人様たちでしょ?

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