企画 | ナノ
リタは発育がよくない。
これは胸がどうのなんて問題ではなく、本当によくないのだ。
幼い頃に両親を亡くし、本人はあまり語らないがひとりで生活してきたのだ。しかも、リタは研究や読書にい集中すると他のことに気づかない。まともな食事をとっていないのだということは容易に想像できた。
背は同年代の子よりも低いし、どこもかしこも細い。ふとした瞬間触れたときにその細さにおどろくことがある。
そして、今も驚いているところだ。
「リタっち、ちゃんとごはん食べてる?」
「はあ? なによ。あんたと一緒にごはん食べてるじゃない」
「そうじゃなくて、お昼よ、お昼。おっさんお昼は家にいないじゃない」
同じベッドに入ればいやでも体が密着する。
となりで毎晩体をカチコチに固めて緊張していたリタもこの生活に慣れて今ではレイヴンの体に足を乗せてくるという横暴さも披露している。軽い、いつものじゃれ合いの最中に腰のあたりにリタが足を乗せてきた瞬間レイヴンは驚いたのだ。
細いといつも思っていた。リタはきれいな足をしている。ジュディスまでとはいかないが、本人は無意識なのだろうが足を強調するような格好で座っていたりなんかすると、妙な色気にぐっとくることがある。無防備にそういう格好をするリタに何度ドキッとさせられたかわからないが、その足が乗ってきて、その軽さと細さに改めて驚いたのだ。
朝夕はいつも一緒に食べている。放っておいたら食べないリタが必ず食べるようにというレイヴンの作戦なのだが、昼はそうはいかない。
昼間はひとりで過ごしているリタがどういう生活をしているのか、レイヴンは知らないが、帰ってきてもいつもリタが本を読んで過ごしていることだけは確かな事実だ。朝からレイヴンが帰ってくる夕方まで、ずっと本を読んで過ごしていた可能性もリタなら十分に考えられる。
腰に乗った足をどかせる時に立ち上がったレイヴンはリタの足を見て、眉を寄せた。
「リタっちー、お昼は?」
ぷいっと視線をそむけて、しらばっくれるリタにレイヴンはため息をついた。これは食べてない。そう確信した。
「ったく、リタっちはおっさんがお昼ご飯作って行かなきゃ食べられないわけ? お子さまじゃない」
「っな!? お子さまってなによ! あたしだってやればできるんだから」
「じゃあ、やってよリタっち」
「……めんどくさいのよ」
「も〜、これだからリタっちはー」
最終的にこの手の問題はリタは必ずこの答えに行き着くのだ。
部屋を爆発でも起こったのかというくらいに散らかしていたときも、レイヴンが出張から帰ってきたらベッドを本で埋め尽くして自分は床で寝ていたときもレイヴンが注意するとリタは必ず「めんどくさい」と口にして終わらせてしまう。
リタは人間的な生活に一切関心がない。餓死しないように食事をとる程度なら行うのだろうが、基本的には自分のしたいことしかしたくないし、やらないのだ。睡眠や食事は仕方ないからとっているというだけなのだろう。
「困った子ねえ、リタっちは」
「子供扱いしてんじゃないわよ」
「まだまだガキンチョよ、リタっちは」
睨みつけてくるリタの膝を立てた足のつま先を掬いあげる。
そっと、物語の騎士様や王子様がするような繊細な動きで、その透き通るような白さの足の爪先にそっと口づけた。
リタの顔が一瞬にして真っ赤に染まる。動揺した様子で瞬きを繰り返すリタに表情がゆるむのを感じながら、レイヴンはそっとリタの足をおろした。
「おっさんが爪先までリタっちのこと愛してるから、リタっちにちゃんとご飯食べてもらって元気に生きてってほしいって思ってる。ってこともわかんないんだから、まだまだお子さまでしょ」
片目を閉じて、少々演技がかった口調で言うと、リタは唇を噛んで小さく唸り、顔を背けた。
「わかんないわよ。そんなの……言ってくれなきゃ」
「じゃあ、これからもどんどん言うわ。愛してるリタっち」
「や、やっぱいい。聞いてるこっちが恥ずかしい」
「言ってるほうだって照れくさいんよー? けど、言わなきゃわかんないみたいだし。どうしたらいい? リタっち」
「し、らない」
ぐっと顔を近づけてレイヴンはふっと微笑んだ。
リタの瞳がきょろきょろと落ち着きなく動く。逃げ場を探しているようなその様子にレイヴンはリタのてを握って逃げ道をふさいだ。
「言葉がだめなら、行動しかないと思うだけど、他になんかいい方法ある? リタっち……」
「み、み……! もう、」
耳元でささやいて意地悪くレイヴンは笑った。
ふっと息を吹きかけるだけで、ぴくりと反応して体をよじらせるリタの表情がたまらなく愛しい。
「リタっちも他に案ないみたいだし。行動で示すわ。爪先まで、ぜーんぶ愛してあげるからね、リタっち」
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