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「貴方は、私が生きてさえすればそれで良いんだわ」

 私が幸福であろうと、なかろうと。生きていさえすれば。本当は、どうでも良いのよ。
 そうでしょう?

「私のことなんて。どうでも良いんだわ。貴方は一度も私を見てはくれなかった」

 女は贈られた花を睨みながら言った。小さいくせに自己主張の激しい、華美な瓶に活けられた、花。
 凝った装飾の所為で居心地の悪そうに花は女を見つめ返した。
 私は、と女は誰に告げるでもなく続ける。

「貴方の道具では無いわ。貴方の都合の良い道具では。私にだって心がある。それは貴方が私に与えた物ではなかったの?」

 声が後になるにつれ大きくなっていることに、女はまだ気付いていない。ただ、花瓶を睨んだ。
 広い部屋は女の為に設えられたものだ。大きな窓がありテラスがあり、天蓋の付いたベッドがあった。国内に数個しかないという家具もいくつかあった。それらは全て、女の為にと用意されていた。
 誰よりも広い部屋だった。しかし、女の世界は誰よりも狭いものだった。
 彼女は外を知らなかった。半ば幽閉のような形で育った美しい人であった。
 無知であるが故に、女は外を求めた。異国の言葉も覚え、どんな本でも読んだ。それでも足りなかったのか、外の人を呼び話を聞くこともあった。
 知識はあった。品だってあった。世間の常識とやらも身に付けていた。そして女は美しかった。

「私は」

 それでも女が外へ出ることは叶わなかった。

「私は、」

 ただ贈られた花を睨んだ。顔も知らない夫から贈られた花を。

「生きているのに」

 娘を省みない父を。

「生きていたのに!」

 女は叫んだ。狭い世界に響いて反響して反響して、ぐわんぐわんと視界を揺らした。

「御父様、貴方は私を愛してなどいなかった!」

 半透明の声が、今は誰も居ない空き部屋から聴こえると侍女達の間で噂になり彼女の父へ届くのは何時になるのだろうか。

無知故にその歪んだ愛を受け入れることは出来なかったのです


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