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 僕は恵まれた子、幸福な子。世間からそう言われてる。そういう環境なんだ。もちろん幸せだよ。僕が不幸なんてありえない。そうだよ、僕は幸せなんだ。これはあれだから。嘘じゃないから。嘘じゃないんだ。僕は嘘を吐かない、決して。


 そこまで一気にまくし立てるように言った彼は、屋上の柵に掴まっています。私があと一歩近付けば、逆さまに落ちるつもりなのでしょう。もう身を乗り出して下にある道路を見ているはずです。
 幸せだと言いながら、何故か彼は泣きそうになっています。自らを殺そうとしています。
 それを見ながら、私はといえば、転落死は落ちてる時が一番怖いし綺麗じゃないから止めた方が良いよ、なんて言っています。
 こういう場合は、先生を呼ぶべきでしょうか。いや、目を離せば彼は落ちていくでしょう。屋上はふたりきり。どうにもなりません。

 私の微妙な制止に、彼は、じゃあどうやって死ぬのが一番綺麗なの、と聞いてきました。私は、どれも綺麗じゃないよ、と言いました。強いて言うなら老死くらいでしょうか。
 死というものは大概綺麗なものではありません。そしてそれと対になる生というものも大概綺麗なものではありません。たかが十数年の経験でしかありませんが、私はそう結論付けました。
 生憎、私は彼を止める術を持ち合わせていません。だからただ、ここで見ています。彼が何を選ぶのかを。どちらを選ぶのかを。
 それでから、私がどちらを選ぶか決めようと思います。もともとそのつもりで立ち入り禁止の屋上へ来ましたので。

 綺麗なものとは何でしょう。そんなものこの世にもあの世にも有りはしないのです。

幸せとは、?

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